巨人の肩

シャルトル　《巨人の肩》

【狂気】の第五章で、ルゴフ著『中世の知識人』が話題になったとき、シャルトルの大聖堂のステンドグラスの「巨人の肩」の話になりましたが、このたびシャルトルに行って実際見てきました。（注：【狂気】というのは翻訳フォーラムで行われていた、ミシェル・フーコーの『狂気の歴史』読書会のことです。）

シャルトルは、パリのモンパルナス駅から電車で一時間ぐらい。モンパルナス駅のインフォメーション・コーナー（無人のコーナーです）で「ええと、シャルトルは・・」と見ていると、アメリカ人の家族に声を掛けられ、

　　「どちらに行くの？」
　　「シャルトルです」
　　「あら、わたしたちもシャルトルよ。どこで切符買うのかしら」
　　「うーん、とにかく有人の切符売り場を探した方がよさそうですね」

と、いっしょにおろおろしたすえに無事切符を買うことができました。往復で三千円ぐらいです。この家族はもう１０日もパリに滞在し、ルーブルもオルセーも二日つづ使って見たんだそうです。（結局、一階右手奥で買いました。そのそばの改札口を通ってホームに入ります。何番線かは電光掲示板に出てます。）

シャルトル駅前から見た大聖堂
（けっこう距離はあるのに近く見えます。手前の建物は大聖堂とは関係ありません）

二つの塔の様式が違うのが印象的です
(駅前広場の凝りに凝った花壇も印象的^^;）

シャルトルの歴史は古く、だいたい四世紀、五世紀には司教がいたらしいのですが、正確な起源はよくわからないようです。十二世紀に火災に見舞われ、その後短期間で大聖堂が建立されたので、様式的に統一感のあるものができたということです。その後もいろいろ災難はあったのですが、ステンドグラスは十二、十三世紀のものが難を逃れて保存されており、「シャルトル・ブルー」と言われる青を基調とした美しい色をみせてくれています。このステンドグラスの美しさについては省略します^^;（ぜひ、晴れた日に行ってみてください。上の写真からわかるように、この日はあいにくの曇り空。でも、午後からは薄日が射してくれました(^^)v）。

問題の「巨人の肩」は、南の薔薇窓の下のランセットと言われる部分にあります。五つあるランセットのうち中央に聖母子、その両側が「肩車状態」の四枚のランセットになっています。

わたしは「シャルトルの巨人は誰で、肩には誰が乗っているのだろう？」と思っていたのですが、事実は次の通りです。

　　　聖ルカを肩に乗せたエレミア
　　　聖マタイを肩に乗せたイザヤ
　　　聖ヨハネを乗せるエゼキエル
　　　聖マルコを乗せるダニエル

フランス語で解説いきまーっす！
de gauche a droite: Jeremie portant Saint Luc.
Isaie portant Saint Matthieu, la Vierge avec l'Enfant Jesus,
Ezechiel portant Saint Jean, Daniel portant Saint Marc.

『シャルトル大聖堂』（マルコム・ミラー著、聖堂内の売店で買ったもの。日本語版ですが、翻訳も内容もよいです。お値段は2200円相当。安いです。）にはこうあります。

預言者たちに持ち上げられて、四人の福音書記者は、巨人の肩に乗せられた小人のように小さく見えるが、それぞれに遥か彼方に目を向けている。旧約はその預言が新約で成就するためにあり、新約は旧約を通じて神との間に新しい契約が結ばれるためにある。

正直言って、ルゴフの文脈からは「預言者と聖人」というコンビネーションは想像していなかったものですから、ちょっとびっくりしました^^; でも大聖堂のステンドグラスとしてはもっともですね。またこの本の冒頭のあたりには次のような記述もありました。

彼（フュルベール）の最も優れた後継者としては、シャルトルのイヴォン（1040-1117）と、新プラトン主義者であったシャルトルのベルナールをあげることができる。1119年頃から1124年まで学長を務めたベルナールは、同時代の学者などは偉大な昔の哲学者たちの比べれば巨人の肩に乗った小人のようなものだと考えていたが、このような見方は南薔薇窓下のランセット窓に見られる預言者たちの肩に乗せられた福音書記者の描写にも窺われる。

この記述やルゴフさんの記述から考えるに、「学問一般における巨人の肩状態」という思想がシャルトル派にあり、四枚のランセットは「預言における」その思想の反映と見ることができるかもしれません。

とにかくシャルトル大聖堂のステンドグラスは美しくも興味深く、いくら見ても飽きないくらいで、ずいぶん長い時間を過ごしてしまいました。しかも、大聖堂周辺の古い町並みがすばらしくて、のんびり散歩していたら午後六時ぐらいになってました。もっとも、日没が九時半ぐらいですから、六時でもまだまだ「日中」なのですが。

「巨人の肩」の格言の由来について知りたい方はこちらへ

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