黒い聖母

シャルトル　《黒い聖母》

シャルトル大聖堂の中でももっとも古い部分が、実は、地下聖堂（クリプト）なんだそうです。このクリプトは、バチカン、イギリスのカンタベリー大聖堂についでヨーロッパ第三位の大きさを誇るということです。

クリプトは、一日に何度か guided tourがあって見ることができます。というより、ガイドなしに勝手に入ることはできないのです。ツアーに参加するためには、大聖堂の外、右手奥にある売店でチケットを買い、時刻を待ちます。チケットを買うとき、「ジャポネ？」と聞かれたので「イエス」と答えたら（ここで反射的に「ウイ」と言えない自分が悲しい^^;）、日本語版の説明書をくれました。

ツアーには三十分から四十分ぐらいかかるのですが、その間、99.99パーセント理解できないフランス語を神妙な顔で聞きながらツアーについてあるくのはけっこう苦痛でした^^; フランス語が多少できれば、ゆっくりはっきりしゃべってくれますから初心者でも十分聞き取れて、楽しくも興味深かったろうと思うのですが。

地下聖堂というのは一種異様な雰囲気がありまして、こちらもつい神妙な顔になってしまいます。暗いし、湿っぽいし、かび臭いし、荘厳というか辛気くさいというか、重苦しいというか、おどろおどろしいというか……シャルトルに行ったらぜひこのツアーに参加してみてください^^;

クリプトの目玉は二つありまして、一つは古い井戸。これはかなり古くからあるらしく（四世紀ごろ）、かつて殉教者が放り込まれたりもした大事な井戸だそうです。のぞき込むと、恐ろしく深いです。金網が張ってあるからいいようなものの、そうでなかったら怖いです。

もう一つは、「褐色の聖母子像」です。こちらは【金枝篇】で、地母神崇拝との関連で出てきましたが、講談社現代親書『黒い聖母と悪魔の謎』（馬杉宗夫著）にもとづいて少しまとめておきますと、

１　フランス中央部に黒い聖母像がたくさん見出される。
２　それはかつてドルイド教がさかんだった地域と一致する。
　　（この地域のキリスト教はドルイド教と折り合う必要があった。）
３　聖樹、聖石、聖水（シャルトルはこれらしい）崇拝と重なる。
４　黒は異教的な色であり、大地と結びつき、黒い聖母は地下、洞窟など
　　にある。
５　十二世紀に西欧に広まった聖母子像は、いわゆる玉座の聖母であった。
　　（椅子に腰掛け、キリストを抱く姿。シャルトルもこれ。）

シャルトル地下聖堂の黒い聖母

この地下聖母聖堂は現在も使用されていて、信者用の椅子が細長い聖堂に並べてあり、高いところに掲げた褐色の聖母子が信者席からよく見えます。（というより、目に入るものはそれしかないという感じ。）その雰囲気は地上の聖堂とはまったく別のもので、これはわたしの主観ですが、キリストなんかはどっかに飛んじゃってますね^^; 「聖母マリアに捧げた地下聖堂」っていうのが、ずっしりと重く、湿っぽく感じられました。

シャルトルに行ったら、ぜひ塔にも登ってくださいね。かなりstrenuousだし、高所恐怖症の人にはお勧めできませんが、シャルトルの町の眺望はすばらしいです。目の前に現れたガーゴイル（怪物の彫刻）に、巣から落ちてきたのであろう雛鳥が引っかかって、干涸らびかけていたのは印象的でした。

薄暗い地下聖堂だの、干涸らびた雛だの、不気味な雰囲気が勝ってしまったかもしれませんが、ステンドグラスもシャルトルの町もほんとにすてきなんです。絶対ソンはしませんから、ぜひ晴れた日に訪れてみてください。

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