第二部第二章 妄想の超越性
05867/05874 NBE01771 DELPHICA 【狂気】第二部第二章（その１）
( 3) 98/12/31 17:41 コメント数：1
第二部第二章 妄想の超越性
今年もいよいよ残り少なくなってまいりました。みなさん、お正月を迎
える準備はお済みですか？ さて、【金枝篇】読書会から受け継いだお
約束として、テキストはどんどん先に進んでも、ずっと前の書き込みへ
のコメントは歓迎！ という点を確認したうえで、第二部第二章に進ん
でいきたいと思います。（コメントお待ちしてま〜す^^;）
今回はコラムが多いのが特徴です。関連（脱線？^^; ）情報として、ざ
っと目を通していただければうれしいです。
その１第一節 【狂気と精神と身体】
コラム 『ダランベールの夢』
その２第二節 【近因の再構造化：サイクリックからリニアへ：動物精気から脳へ】
コラム 動物精気とは何か
第三節 【狂気の遠因は何でもあり！：「感受性」によるひそかな統一】
その３第四節 【精神・情念・身体：妄想の誕生】
コラム 情念とは何か
第五節 【妄想の超越性】
その４第六節 【狂気は盲目】
第七節 【昼と夜：光と影】
コラム ラシーヌとは誰か
その５第八節 【アンドロマックの世界】
コラム 『アンドロマック』
第九節 【非存在、否定性、空虚としての狂気】
■第一節 （p.233〜p.238）
【狂気と精神と身体】
この節では、「精神と狂気との関係は？」という問題が提起されます。精神と
いうのは、人間にとっては大きな問題なのですね。精神に関係する言葉を、思
いつくままヤヤコシソウな順に並べてみると（深い意味はありません^^;）
魂 精神 心 意識
のようになるでしょうか。この四つの中では比較的定義しやすそうな意識でさ
え、意識について書かれたあれこれの本をめくってみると、著者ごとに微妙に
異なることがらに対して意識という名前を与えている（と思える）現実に出会
います。
さて、フーコーは、このややこしい精神（と狂気）の問題を扱うために、まず
はじめに歴史的な捉え方について説明しています。まずは神学的な立場、つい
で、それを事実上肯定している法律上の立場です。歴史的（宗教的）精神観と
は、ひらたく言えば、
精神は、霊的で、純粋で、不滅である。p.234
ということのようです。したがって、狂人といえども精神は狂ってはいない。
精神とは、狂うはずのないものだからです。狂人の精神は、どこかに引きこも
っていて、病気から保護されている。したがって、狂人は間違いなく（宗教的
な意味で）救われる。そして法律上も、狂人の行為は犯罪とは認められない、
というわけです。
しかし医学的にはどうなのだろうか？ と話は進みます。医学的精神観で問題
になるのは、一言でいうと「精神の物質性」です。「十八世紀はこの問題に夢
中になった」とフーコーは述べています。
物質によって、物質をとおして、物質ゆえに精神がその
最も本質的な機能を――たとえば判断力それじたいを冒
されている場合に、精神は物質の一部である必要はない
のか？ p.234
フーコーがここで大きく取り上げるのは、ヴォルテール（1694-1778)の先駆的
な思想（『哲学辞典』より）です。これを簡潔にいうと、
狂気は精神を冒す
→霊的存在としての精神は存在しない
→精神は物質的である
ちょっとずらして言い換えると、
やぶにらみで物が二重に見える人は狂人ではないが、二重
に見え、しかも人間が二人いるとすっかり思い込んでいる
人は狂人である。
p.235 ソヴァージュの記述
ヴォルテールはこの考え方である。byフーコー
つまりヴォルテールの問題意識は、「狂気は精神の物質性を証明するか否か」
ということだった（それを彼は、矛盾と欺瞞、策略、皮肉でもって記述して
いるそうであります。アンマリヨミタクナイ^^;）。そしてそれが十九世紀に発展して、
唯物論的 ：狂気は物質的原理の器官上の障害である
非唯物論的：狂気は非物質的な精神の霊的な錯乱である
と、はっきりと分離した形になる、とフーコーは言っているようにわたしに
は読めるのですが、いかがでしょうか（自信ない^^;）
-------コラム 『ダランベールの夢』---------------------
さて、ヴォルテールとは百科全書仲間のディドロ（1713-1784)
は、『ラモーの甥』で話題になりましたが、この十一月に岩波
文庫の『ダランベールの夢』が重版になりました。さっそく買
ってみましたが、『ラモーの甥』とは違ってちと読みにくく、
めくってみただけです^^;
この『……夢』は、「展望」とか「野心」といった意味ではな
く、ホントにダランベールがベッドの中で寝言を言い続けると
いう設定でした(^o^;;
そしてそこで語られているのは、物質と生命、生物の組織、生
物における意識の発生と機能に関連した唯物論的な主張のよう
です。とくに、「普遍的感性（物質に普遍的な、です）、後生
説、生物の器官的統一という三つは、われわれが《魂》や《意
識》と名づけるものと区別できない」ということらしいです。
（文庫の解説による）
となると、これはヴォルテールの立場を近いですよね。ここら
へん、百科全書仲間の思想ということなのでしょうか・・
--------------------------------------------------------
しかし、こうしたヴォルテールの思想が、十八世紀の思想にとって重要だった
とは言えないのだそうです。では、十八世紀の医学は何を考えていたか。どう
やら十八世紀の医学は、もっと単純素朴に、身体と精神は切っても切れないも
のであり、統一されていると考えていたようです。
「……実験的に医学が知っている事柄であるが、身体のあ
る状態は必然的に精神のある運動を生みだし、その運動
はこんどは身体を変化させる。……実験はそれ以上には
探求を押し進めないし、それ以上を知ろうとする努力を
しないにもかかわらず、精神と身体の結合はきわめて強
いので、一方が他方の合意なしに作用するとは考えにく
い。……」p.238 18世紀スイスの医学者ティソの本より
十八世紀が狂気を問題にするとき、それは「身体と精神がともに問題とされる
ある何事かをさしているのである」p.238
そこで、十九世紀につながるヴォルテールの問題意識はとりあえず置いておい
て、この「密着した身体と精神」という狂気経験に独自の構造を見ていこう、
とフーコーは言っています。以下、
１ 最も外的な構造（因果関係のサイクル）
２ より内的でより見えにくい構造
（情念とイマージュのサイクル）
３ この経験の空洞部において、この経験をありのままに
構成し得たもの（妄想の本質的契機）ヨーワカラン^^;
の順番に話が展開するそうです。
05868/05874 NBE01771 DELPHICA 【狂気】第二部第二章（その２）
( 3) 98/12/31 17:42 05867へのコメント コメント数：1
■第二節 （p.238〜p.244）
【近因の再構造化：サイクリックからリニアへ：動物精気から脳へ】
まず、狂気の直接的原因（近因）は何か、という問題です。
------コラム 動物精気とは何か--------------------------------------
この節では「動物精気」なる言葉が頻出します。中公バックス『世界の名著』
の「デカルト」の巻の、「情念論」の訳注に手際良い解説がありましたので、
それを箇条書き風にしてご紹介します。
１ デカルトにおける動物精気は、気化した血液のようなもので、
血液と本質的にかわらない。
２ 二世紀のガレノス以来の古い医学では、精気pneuma; spiritus
は血液に加わる生命物質。自然精気spirits naturales、生命
精気spiritus vitales、精神精気spiritus animales の三つに
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
分かれる。精神精気は、心的作用を生む。(下線はDEL）
３ この伝統的な考え方によれば、spiritus animales は、動物精
気ではなく、精神精気とか心的精気とか訳すべきである。
４ しかしデカルトにとっては、血液とは別に「精気」という物質
があるわけではない。
５ デカルトは、意識作用を、まったく非物質的な精神の作用と考
えたので、ガレノスの精神精気は、デカルトにおいては意識作
用という意味を完全に失い、単なる流体にすぎず、意識をまじ
えない反射行動のみの説明原理になっている。だから、動物精
気という訳は、ガレノスの意味では誤訳だが、デカルトの意味
ではむしろ適訳である。
で、十七世紀の狂気の近因という文脈で出てくるのは、デカルト的というよ
りはガレノス的spiritus animalesのように思われます。
-------------------------------------------------------------------
十七世紀の近因：十七世紀には、患者の様子と、近因の様子がパラレルだった。
つまり、密接なイメージで結び付いていたそうです。近因に
は二つあります。それは、動物精気の機械的変質と、動物精
気の化学的変質です。
１ 動物精気が機械的に変質する。躁病患者では、動物精気
が激しく運動する。それが激しい運動につながり、患者
も激しく動き回る。
２ 動物精気が化学的に変質する。酸性をおびる結果、腐敗
しやすく透過しやすくなり、軽快になる。炎のように激
しくなり、それが躁病患者の熱狂的な姿になる。
このように、原因の「不可視的な形象（動物精気がどうのこ
うの）」が、結果の「知覚される性質（患者のようす）」か
ら直接的に引き出されている。したがって、原因→結果 の
みならず 結果→原因 という密接なつながりが存在し、近
因と結果とはサイクリックになっている。十七世紀において
は、この円環は完全であった、とフーコーは言っています。
十八世紀の近因：ところが十八世紀にはこの円環が断ち切られ、近因と結果は
リニアな関係になります。十八世紀の狂気の近因は、
精神にもっとも近接した器官の、すなわち神経系統
の、しかも可能なかぎり脳じたいの可視的な変質で
なければならぬ。p.241
具体的には、脳を数cc切り取り、躁病患者の脳は軽いとかな
んとか、そういう話になります。「脳が炎のように燃えてい
る」みたいなメタファーっぽい近接性ではなく、「脳は精神
に近い器官だ」という即物的な近接性しかなくなるわけです。
こうして狂気の近因は、古典主義時代のあいだにその意味作用が変質し、「性
質」重視の円環から、精神に近接した器官としての脳の変質へと、再構造化さ
れたのでありました。（十九世紀になると、ここから唯物論や器官障害論が出
てくるが、今のところはそれとは関係がない、とフーコーは言っています。）
■第三節 （p.244〜p.248）
【狂気の遠因は何でもあり！：「感受性」によるひそかな統一】
古典主義時代に、狂気の近因は物質的な近接器官の障害へとリニアに再構造化
されたわけですが、一方、遠因はそれとは逆の道筋をたどったようです。要す
るに、なんでもかんでも遠因になりえたわけです。いくつか具体例を挙げてみ
ましょう。(DELの一言コメントつき^^;）
鉱山への接近 なんだこれは
便秘 （……）
冷たくあしらわれた恋心 (^O^;;
学問の愛好と文芸の教養がひどく多岐にわたること
心当たりのある方は注意しましょう
小説本を読むこと 同上
徹夜 わたしは大丈夫(^^)v
メソジスト派への過度の信心 十八世紀の特殊事情のようです
テキストには以上のような項目や、それとの関連項目が多数挙げられています。
このように見ると、狂気の遠因はただひたすら漠然と広がっていくように見え
ますが、実はそこにはひそかな統一性があるのだ、とフーコーは言っています。
フーコーは「月の影響」を例に、その統一性を論じます。それを簡単にまとめ
ると、かつて月は不思議な直接的影響によって人を狂気に導いた。ところが古
典主義時代には、
月は大気に影響する→人間の神経系統は大気の影響を受ける
→したがって、月の位置は人の神経に影響する
という理屈になります。したがって、どんな「遠隔な、どれほど異質な」影響
も、まわりまわって狂気の遠因になりうるわけです。それは、人間の身体の特
別な感受性によるものです。
以上、第二節と第三節をまとめると、古典主義時代の狂気に関する医学的経験
は、次の二つに分割されるということです。
１ 身体の偶然的な症状および障害によっておこる精神の現象（二節）
２ 環境の影響の変化によって規定される人間全体の現象（三節）
05869/05874 NBE01771 DELPHICA 【狂気】第二部第二章（その３）
( 3) 98/12/31 17:44 05868へのコメント コメント数：1
■第四節 （p.248〜p.254）
【精神・情念・身体：妄想の誕生】
この節では、第一節で述べた二番目の構造、すなわち
２ より内的でより見えにくい構造
（情念とイマージュのサイクル）
に話が進みます。
----------コラム 情念とは何か-----------------------------------------
この節では「情念」という言葉が頻出します。わたしなどは情念と言われても、
「彼は暗い情念に駆り立てられて犯罪に走った」みたいな文脈しか思いつかず^^;
情念って何？ と、とりあえずデカルトの考えを見てみました。（上述の中公バ
ックス「情念論」）
デカルトが情念として挙げているのは、驚き、尊重、軽視、高邁、高慢、謙遜
卑屈、尊敬、軽蔑、愛、憎しみ、欲望、希望、懸念、執心、安心、絶望、不決断
有機、大胆、負けぎらい、臆病、恐怖、内心の不安、喜び、悲しみ、嘲り、羨み
憐れみ、自己に対する満足、後悔、行為、感謝、憤慨、怒り、誇り、恥じ、嫌気
残り惜しさ、嬉しさ、です。そしていっさいの情念は、「驚き」「愛」「憎しみ」
「欲望」「喜び」「悲しみ」に六つに還元できるんだそうです。要するに感情全
般ですな^^;
------------------------------------------------------------------------
この節、かなり込み入っていますので、逆にひらたく勝手にまとめることに
したいと思います^^;（ものすごい勝手読みの恐れあり。でも、そうしないと
長くなります。）
まず、デカルト以前も以後も、情念とは精神と身体をつなぐ接触面と考えられ
ていた、という点をおさえておきたいと思います（これと関連するのがデカル
トの松果体というやつですね）。ポイントは、古典主義時代においてはその接
触が直接的（無媒介的）であって、もはや身体と精神はいっしょくただという
ことです。それは一つの統一単位である（←十八世紀の実務では大事）。もは
や、情念は、身体と精神の中間点ではなく、ちょっと浮き上がったところに存
在する。そして狂気は、その浮き上がった地点に渦巻いているのである（ああ、
わたしもフーコー読んでいるうちに、わけわからんこと言うようになってしも
た……(--;))
かつて人は（ギリシャ・ラテンに立脚して）、狂気は情念に対する懲罰と考え、
さらには情念のことを軽い狂気とさえ考えていました。ところが古典主義時代
はそれをひっくりかえし、情念の性質こそは、狂気の土壌だと考えるのであり
ます。あるいはこうも言えるかもしれません。
「情念のこねるへ理屈」＝「狂気の自由」
そしてその自由の中で、人は破滅してゆくのであります。
情念に発し、身体と精神に広がっている作用、それこそが狂気の根本的な発生
可能性になる。つまり、前節では、情念は狂気の遠因の一つであったのが、こ
こでは、第二のサイクルの出発点、しかも、より本質的な出発点になります。
さらに重要なのは、浮き上がった地点にある情念の力はものすごく、そこから
妄想＜デリール＞が誕生するということです。情念から出発した狂気は、《非
現実的なもの》を出現させる……
■第五節 （p.254〜p.260）
【妄想の超越性】
ここではいよいよ、三番目のサイクルです。
３ この経験の空洞部において、この経験をありのままに
構成し得たもの（妄想の本質的契機）
イマージュそれ自体は、狂気とは関係がありません。人はイマージュを客観的
に見て、（つまりイマージュの外側に立って）それが真実かどうかを判断しよ
うとするからです。ところが狂人は、イマージュの外側に出られない。出られ
ないけれども、イマージュに留まってはいない。イマージュを支持し、それに
働きかけ、掘り、確証し、それを組織する。そうした行為をひっくるめて、フ
ーコーは（狂気の）「言説＜ディスクール＞」と言っています。（このあたり
文章はわかりにくいのですが、フーコーが言っていることは結構身近に感じら
れて説得力があると思ってしまうのはわたしだけでしょうか。狂気とまでは行
かなくても、どうしようもない情念のへ理屈にからめとらてしまうのは、人間
にはよくある話なのでは？ フーコー風にいうと、狂気の決定論に落ち込む、
ということでしょうか^^;）
重要なのは、その言説が「非論理的でない」という点です。むしろある意味で
は、杓子定規に論理的だと言えるかもしれない。例を挙げましょう。
死者は食べない。私は死んでいる。したがって私は食べる必要がない。
あの人とあの人とあの人……は私の敵である。ところでどの人も人間
である。したがってすべての人は私の敵である。
この家に住んだ大部分の人は死んでしまった。したがって、この家
に住んだ私は死んでしまっている。
以上p.255
おちょくっとるんか！ と言いたいかもしれませんが、狂人は大真面目です。
「狂気の究極の言語は、理性の言語である」p.255 しかし、何かが狭い。
狂気の言語は、
（理性の言語であるが）ただしイマージュの威光に包まれ、
またイマージュによってその境界を定められる見せかけの
空間に限定された言語である。p.255
その限定された言語が、イマージュを越えて奇妙なシステムを作る。さらに悪
いことに、その言説は論理的であるがために、「だから信じろ」という強制力
をもってしまう。
さてここで、ここでフーコーが「三つの円環」と呼ぶものをまとめておきまし
ょう。
１ 因果関係のサイクル
２ 情念を出発点とするサイクル
３ 幻覚に始まり、妄想の言語活動の厳密さによって閉じられるサイクル
フーコーはこの節の最後に、妄想においてこそ、狂気のすべての円環が始まり
また終わるのである、と述べています。
この妄想こそは、狂気それじたいであり、と同時に、狂気の
現象それぞれのかなたにおいて、狂気を真の姿において構成
する静かな超越性である。p.260
なーんだ、古典主義時代の狂気って妄想のことだったの〜。それならそうと言
ってくれればいいのに^^;（←わかったようなわからないような）
05870/05874 NBE01771 DELPHICA 【狂気】第二部第二章（その４）
( 3) 98/12/31 17:44 05869へのコメント コメント数：1
■第六節 （p.260〜p.265）
【狂気は盲目】
第五節までで、この章で本来論じるべき内容の骨子は述べられました。この節
では、「狂気＝夢（夜のイマージュ）＋錯誤（これがカギ）」だ、という議論
から、夜と昼というメタファーが登場します。また、夢はそれ自体では狂気に
はならない。「錯誤」が鍵です。狂気は、理性に従いつつ、確信をもって錯誤
に陥る。
さらにここでは、「盲目」というキーワードが登場します。盲目とは、古典主
義時代の狂気の本質にもっとも接近する語の一つだとフーコーは言っています。
具体的には（まあ「恋は盲目」と言いますから、なんとなくわかりますけど）、
この語（盲目）が述べているのは、狂気のさまざまな
イマージュをつつみ、それらの孤独の中でそれらに目
に見えざる至高性を与える、準睡眠状態のあの夜につ
いてである。だがまたこの語が述べているのは、根拠
に乏しい信念についてであり、まちがっている判断に
ついてであり、狂気と切り離されない錯誤の基調につ
いてである。p.265
ここでの「根拠に乏しい信念」とか「まちがっている判断」とかいった記述は、
「あばたもえくぼ」の恋の狂気を想像すればわかりやすいですね^^;
■第七節 （p.265〜p.268）
【昼と夜】
この節では、フーコーの言う「昼と夜」が肉付けされているのだと思います。
ともあれ、ここではラシーヌという人物が何度も取り上げられるので、この人
物について見ておきましょう。（人文書院版「ラシーヌ戯曲全集T」による）
-----コラム ラシーヌとは誰か------------------------------------
1639-1699 つまり十七世紀に生きた、フランス古典主義を代表する詩人、
劇作家だそうです。幼少時に両親を亡くし、ポール・ロワイヤル修道院で
宗教のみならずギリシャ古典についても厳格な教育を受けます。ポール・
ロワイヤル修道院というのはジャンセニスムの中心地だったそうです。
ジャンセニスム（思想内容）
神学思想としてのジャンセニスムは，後期アウ
グスティヌスの恩寵観を奉じて，一方では神の
預定と恩寵の絶対性を，他方では原罪以後の人
間の無力さを強調する。これは，ルネサンスと
宗教改革に衝撃を受け，近代世界にどう対応す
べきか模索していたカトリック神学の一つの極
限的解答であり，キリスト教とヒューマニズム
との調和を図る近代主義的傾向――その代表が
イエズス会である――の対極にある立場である。
（平凡社世界百科事典より）
のちにパリに出て、詩人、劇作家として成功し、その作品は悲劇の典型、完
璧な古典劇として、現在、フランス国民がもっとも誇りにしているそうです。
（現在、というのは、二十世紀半ばの1964年に訳者が書いた言葉です。）
もちろんラシーヌ批判もありますが、それはラシーヌ崇拝の反動といった色
彩もあるのではないかとのこと。とにかくフランス人であれば、幼少のころ
より教科書で読み、舞台で見て、みんな知っているみたいです。フーコーに
ラシーヌが出てきても、フランス人であれば、あああれかと、すんなり理解
できるのでしょう。
--------------------------------------------------------------------
フーコーが「昼と夜」を重視していることは、
昼と夜のサイクルこそ、古典主義時代の循環＜サイクル＞な
のである。p.266
と書いていることからもわかります。ちなみに、
ラシーヌの演劇上の時間とジョルジュ・ド・ラ・トゥール
の空間とを支配する断絶を描いている形態。p.266
という記述について補足しておくと、ラシーヌは、ドラマの進行は太陽の一回
転のうちに完了させるべきだ（アリストテレス）に従っているそうです。とは
いえ、登場人物は過去を語り、未来を予感しているのですが。一方、ジョルジ
ュ・ド・ラ・トゥール（1593-1652）は、ロウソクや松明などに光に照らし出
された静謐な構図の作品によって、フランス古典主義の成立を予告する画家と
されています。光の使い方ということで代表的だと思うのは、＜大工の聖ヨセ
フ＞、＜聖イレネに介抱される聖セバスティアヌス（松明をもった）＞、＜改
悛するマグダラのマリア（聖なる火を前にしたマグダラのマリア＞あたりでは
ないでしょうか。いずれもルーブルにあります。
昼と夜をめぐって、いくつか対応する語をリストしてみると
昼（真実） 夜
昼の光 幻惑（真昼間における夜）
覚醒 夢
光 影
といった感じになるでしょうか。とにかく鍵になるのは、「狂人は、昼の光の
中に生きていても夜しか見ない」ということです。狂人は夜の中に、いわば昼
と同じぐらいの真実を見つけ出している……
05871/05874 NBE01771 DELPHICA 【狂気】第二部第二章（その５）
( 3) 98/12/31 17:46 05870へのコメント
■第八節 （p.268〜p.271）
【アンドロマックの世界】
この節は、フーコーによるラシーヌの『アンドロマック』論といった趣があり
ます。ロラン・バルトにも『アンドロマック』論があるそうですし、他にもい
ろいろが人が取り上げているようです。そこで、テキストに沿ってフーコーの
議論を読む前に、『アンドロマック』とは何かをざっと見ておくことにしまし
ょう。
------コラム 『アンドロマック』------------------------------------
1667年に初演されたラシーヌの作品で、ものすごい大成功を収めたようです。
とにかく『アンドロマック』なしには夜も日も明けぬという熱狂的ファンが
発生し、それを題材とする諷刺劇までできたということです。
岩波文庫の『フェードル／アンドロマック』は
絶版だそうです。「え？ 品切れでしょう？」
と聞いたら、本屋さんは「絶版と出てきます」
と言ってました。そんなわけでわたしが読んだ
のは、図書館から借りてきた人文書院版「ラシ
ーヌ戯曲全集T」なのです。
わたしも『アンドロマック』を読んでみましたが、一言でいえば、恋の狂気
の大盤振る舞いです^^; あまりの狂気の沙汰にわたしはあいた口がふさがら
ず、最後のどんでん返しでは、「なはは・・(^o^;)」と笑ってしまったぐら
いです。ざっと主要登場人物（四人）の人間関係（悲劇の四角関係^^; ）を
ご紹介しておきますね。
１ アンドロマック（アンドロマケー、トロイの総大将ヘ
クトールの妻、夫は惨殺される）は、亡き夫（とその
子）のことしか頭にない。敵であるピリュス（ピュロ
ス、アキレウスの息子）の捕われ人となる。
２ オレスト（オレステース、アガメムノンの息子）は、
エルミオーヌ（ヘルミオネー、ヘレネーの娘）に恋焦
がれるも、相手にされない。
３ エルミオーヌはピリュスに恋焦がれるも、相手にされ
ない。
４ ピリュスは、トロイ戦争で獲得したアンドロマックに
恋焦がれるも、相手にされない。
５ オレストはエルミオーヌにそそのかされて、敬愛する
ピリュスを殺害する。
６ エルミオーヌは、彼女の言葉に従って、義理も人情も
何もかも捨ててピリュスを殺したオレストに対して、
「なんてひどいことを、あなたは私の心の奥の奥を読
むべきだったのに（ホントは殺してほしくなんてなか
ったのよ〜、彼を愛してたのよ〜）、この人でなし！」
みたいにののしり、ピリュスの後を追って自殺。
７ オレスト発狂。
ちなみに、最初にオレストを演じた俳優は、この
狂乱の場を熱演しすぎて急死したとか^^;
また、サラ・ベルナール（ミュシャのポスターで
有名な）は、アンドロマックでもエルミオーヌで
も、歴史に残る演技をしたようです。
とにかく、侍女や従者はまっとうなだけに、主要登場人物の狂気ぶりが
目立つわ目立つわ^^; でもって、それぞれが理屈をこねるわこねるわ^^;
「ラシーヌは恋する者を描くのが巧みだと言われるが、実は、愛されな
い者の悩み、嫉妬、絶望を描くのが巧みなのだ」（上掲全集中の「ラシ
ーヌについて」より）という佐藤朔氏のご意見に、なるほどとうなずい
てしまいました。
----------------------------------------------------------------
さて、ここでフーコーが述べているのは、彼がこれまで論じてきた古典主義時
代の狂気経験によって、この『アンドロマック』がいかにうまく説明できるか
ということです。説明の詳細を取り上げることは、『アンドロマック』詳細を
共有していないと意味がないので省略して、ここではただ、ラシーヌの『アン
ドロマック』の歴史的な位置づけという大枠だけを取り上げたいと思います。
フーコーは（わたしの見るところ）次のように論じているようです。まず、こ
の時期、狂気が悲劇的行為ではなくなる（トリスタンのような？）。そして今
後二世紀、悲劇は非理性の人間と縁を切る。そのちょうど分かれ目に登場した
のが『アンドロマック』であった。
『アンドロマック』は、狂気の悲劇的な現れの最終場面ともいえる。悲劇とし
ての狂気の、最後の姿ともいえるかもしれない。そこには古典主義時代の狂気
のありのままの姿が表れていると同時に、今後狂気がどうなるかが表明されて
いる。
それは最初の大古典悲劇の最終場面でなければならなかった。
^^^^ ^^^^
いや、こう言ってもよい、前古典主義的な演劇の最終のもの
^^^^^^^^^^
である悲劇的な動きのなかで、狂気の古典主義的な真実が表
明されるのはこれが最初である。
^^^^
（p.269 傍点はフーコー）
それ以前の悲劇においては、狂気はやはり真実を語っていたとフーコーは言い
ます。ところが、『アンドロマック』では、いかなる真実も語られはしない。
語られるのはただ、自らの完成をめざした情念の、《妄想》における真実だけ
だ、とのこと。ちなみに、フーコーははっきりこうも言っています。
この妄想には名前がついている。エルミオーヌである。p.270
■第九節 （p.271〜p.272）
【非存在、否定性、空虚としての狂気】
予想していた事態ですが、ここではっきりお詫びしないといけません。実は、
これまでの話で、いけない、いけない、と思いながら一貫して無視してきた概
念がありました。それは、「非存在、否定性、空虚としての狂気」ということ
です。これがフーコーの『狂気の歴史』のキー概念だとわかっていながら（少
なくとも感じていながら）、話がややこしくて長くなってしまうというしょう
もない理由から、意図的にシカトしてました。（ちょっとは書きましたが^^;）
この概念をめぐる記述を丹念にひろって来ていれば、全体としてわたしの書き
込みは1.5倍ぐらいの長さになっていたと思います(--;)
しかしこの節まで来て、もう逃げられません。フーコーは以下のようにこの章
全体を締め括っているからです。まず、
非理性について今やわれわれが知っている事柄のおかげで、われ
われは監禁が何であったのかをよりよく理解できる。p.271
監禁が花盛りだったのは、
（古典主義時代の狂気は）非存在の逆説的な明示になってしまっ
たという事態に。（監禁という作用が休止しなかった意味がある）
（かっこはDELの補足）
からである。そして、監禁の目的は、
（狂気の本質を明示するのではなく）非存在を明るみに出すこと
である。
というのは、狂気にその虚無の真実を確認させるからである。
そしてフーコーはこう述べるのです。
監禁、それは非理性として、すなわち理性を欠く否定性として
感じられている狂気にきわめて正確に合致する実務である。
さらに、第一部で論じられた監禁の特徴（医者に判断を求めるのではなく良識
人に求めるとか、要するに懲らしめだったとか）は、この否定性<ネガティウィティ>
によって説明できるということです。このあたりのフーコーの論調には、「こ
こまで読んできた人は、古典主義時代の狂気経験ということがよくわかったは
ずだ」という気持ちがみなぎっているんですけど、みなさんいかがですか？^^;
わたしとしては、理性の時代とされる古典主義時代の狂気経験が、非理性であ
り否定性であり空虚だという主張は、ちょっとわかりやすすぎて拍子抜けして
しまう感じもあるのですが^^; しかし、『狂気の歴史』が出版された1961年の
段階では、革新的な古典主義時代およびその狂気経験観だったのでしょうね。
われわれはフーコー以後を生きているので、知らず知らずのうちにこうした考
え方に馴染んでしまっているのか。あるいは、『狂気の歴史』をゆっくりゆっ
くり読んでいるうちに、フーコー慣れしてしまっただけなのか^^;
-----------------
本章は、狂気の遠因とか近因とか、妄想の本質的契機とか、なかなか多彩な内
容だったのですが、やっぱり『アンドロマック』の恋の狂気が強烈でした^^;
ではみなさん、1999年も【狂気】読書会をどうぞよろしくお願いしますm(..)m
05915/05915 BQA01727 ＭＹ 『フェードル アンドロマック』重版
( 3) 99/01/22 02:52 05871へのコメント
DELPHICAさん 今晩は。すみません、まだちゃんと拝読していないのですが
一言だけ。(^^;
>岩波文庫の『フェードル／アンドロマック』は絶版だそうです。
しばらく品切だったようですが、今月18日に重版されました。実は来週「フ
ェードル」を観に行く予定で、予習(^^;のために読みたいな……絶版なら古本
屋を探そうか……と思っていたところ、『図書』の今月号に重版の案内があり
ました（確か昨日の『朝日新聞』にもあった）。この公演（ボンディ演出／銀
座セゾン劇場）に合わせたのかもしれませんね。
で、今日、無事に書店で買ってきました。(^^)「フェードル」から読み始め
たところ（大量の訳注が気になってなかなか進まないのですが）、これも狂気
の沙汰ですね。(^^; でも、今夜一緒に食事した仏文科出身の先輩によると、
「アンドロマック」のほうがずっとおもしろいとのこと。そちらも楽しみにし
ています。
ところでその先輩の話では、“フランス語があまり分からなくても、原文を
読むとアレクサンドランの美しさに打たれるものだよ”。さて僕は打たれるこ
とができるのやら。(^^; まあ、まずはフランス語の台詞をじっくり聴いてみ
ることにします。
--
99/01/22 02:48 ＭＹ
05916/05916 NBE01771 DELPHICA RE:『フェードル アンドロマック』重版
( 3) 99/01/22 09:21 05915へのコメント
ＭＹさん、こんにちは。わたしも昨日、新聞の広告で重版のことを知り、今日
書き込もうと思っていたところでした。また、一週間ほど前に、やはり新聞に
「フェードル」（パイドラなんですね^^;）が上演されることを知りました。
ＭＹさんは見に行かれるんですね、うらやましい！
で、「フェードル」上演がわざわざ新聞記事になるなんて、と気になって、筑
摩書房の世界古典文学全集のラシーヌの巻で読みました。わたしもその仏文の
先輩がおっしゃるように、「アンドロマック」の方が面白いと思いました。で
も一般には、ラシーヌの最高傑作は「フェードル」だということになっている
んでしょう？
それで気になって、同じく筑摩書房の筑摩世界文学大系１８ 古典演劇に掲載
されている、ロラン・バルトの「フェードル論」を読んでみました。（こちら
にも「フェードル」は掲載されており、訳者は同じ二宮フサさんですが、訳は
少しだけ違っています。）「言おうか、言うまいか。それが問題だ。」で始ま
るロラン・バルトの「フェードル論」、いや、面白かったです。読み終わって、
上記の書き出しの深みもよくわかりました。おすすめできます。
ついでに、昨夜、たまたま手元にあった講談社現代新書『はじめて
のギリシャ悲劇』丹羽隆子著の、エウリピデス「ヒッポリュトス」
（フランス語だとイポリットなわけですが）の部分を読んでみまし
た。ちなみに、この現代新書はおすすめできません。でも、ラシー
ヌとどこが違うか、おおざっぱなことはわかります。たとえばラシ
ーヌではフェードルは服毒自殺ですが、エウリピデスのパイドラは
縊死です＞ゴルクスさん^^;
とにかく、「フェードル」に関しては、アレクサンドランで書かれたフランス
語の美しさというのが、言葉では尽くせないほど大きいようですね。ええと、
どこで読んだエピソードか探せないのですが、ヴァレリーがアレクサンドラン
で詩を作ろうと思って考えながら道を歩いていると、ある書店のショーウィン
ドウに「フェードル」の豪華本が開いて置いてあったそうです。ヴァレリーは、
その詩句を変更することはできないかと「フェードル」にチャンレンジした。
しかし結局、一語たりとも変えることはできず、ヴァレリーは「完成された作
品というものがどういうものかを理解した」とのこと。落ち込んだそうです。
お芝居の感想、ぜひぜひ聞かせてくださいね〜
05920/05920 HFC01337 beck Re^2:『フェードル アンドロマック』重版
( 3) 99/01/28 03:44 05916へのコメント
ＭＹさん、DELPHICAさん
「フェードル」は、だいぶ前に岩波文庫ので読みましたが、とてもよかった
です。フランス語で読めたらさぞや素晴らしいのだろうなと思いました。ラ
シーヌのほかの作品も読みたいと思って探したのですが、人文書院で全集が出
ていましたか。手元にはラシーヌが収録されている筑摩の「世界古典文学全集
48」がありますが、同じ筑摩で「筑摩世界文学大系１８ 古典演劇」というの
もあるのですね。ロラン・バルトの「フェードル論」など、評論が載っている
のでしたらそちらの方がよさそうです。
「狂気」も読もうとしつつなかなか先へ進めません(^^;。そのうち読もうと
いくつか買ったフーコー本も堆積したままです。今年中にはなんとかしたいな
あ(^^;。
05925/05926 KHC04271 ゴルクス 続・縊死する女たち
( 3) 99/01/31 10:40 05916へのコメント コメント数：1
DELPHICA さん、みなさん、こんにちは。
:>たとえばラシーヌではフェードルは服毒自殺ですが、エウリピデスのパイドラ
:>は縊死です＞ゴルクスさん^^;
えと、縊死の話、最初は『金枝篇』スレッドでしたね (^^;
（1997年５月10日付け #03957 あたり）
今からリンクするのは無理だろうし、さてどうしたものか、と思っていたこと
があるので、忘れないうちに書いておきます (^_^)
ギリシアでは縊死が自殺の正統な手段（？）の一つだった模様です (^^;
以下、ブルクハルト著『ギリシア文化史・３』（ちくま文庫。1998）を利用しま
す。斜め読みしかしてないので、お時間のあるおりに検証よろしく (^^)
（前略）キリスト教の聖典学者たちも、（女性が）凌辱に対して身を守る
ための自殺を擁護している。人々が好んだ死に方は、絞殺によるものか、
もしくは本来の縊死によるものであった。 p.407.
とあるので、あとは「本来」の方が見つかればよいのかな、と (^^;
２つほど例が載っております。
（１）アイリアノス『ギリシア奇談集』第１３巻・第３６節
とあるので、同名の岩波文庫版（1989）を利用して全文を紹介しますと、
オリュンピアスはピリッポスの娘エウリュディケに−−エウリュ
ディケはさるイリュリア出身の女がピリッポスに産んだ子であった
−−毒人参と紐と剣を送り届け、エウリュディケは紐を選んだ。
p.392.
とこれだけです (^^; 『ギリシア文化史・３』に戻りますと、王妃オリュムピ
アスはアレクサンドロス大王の母親であり、その継娘がエウリュディケなんだそ
うです。毒人参って、ソクラテスが自殺した時に使ったものですよね。自殺する
時に３つを選ばせるのでしょうか？ 性別で何か違いがあったのかな？
（２）エウリピデス『ヘレネ』２９７行
手元に『ヘレネ』がないので『ギリシア文化史・３』のみ使います。
エウリピデスの悲劇において、ヘレネは縊死を高貴ではなく、奴隷に
とってさえふさわしくなく、刃で貫いて死ぬ（スパゲ）のが高貴であり
立派だと言っているが（この台詞は通常削除される）、別に期するとこ
ろがあって言っているわけではない。（後略） pp.407-408.
どうやら縊死が「高貴な死に方」のひとつとして知られていたこともあったよ
うです。「通常削除される」という但し書きが気になりますね (^^; 前回は
『アポロドーロス ギリシア神話』（岩波文庫）の中から縊死の例を見つけた
わけですが、ほかの資料でもいろいろ見つかりそうで楽しみ（？）です (^^;
05926/05926 KHC04271 ゴルクス RE:続・縊死する女たち
( 3) 99/01/31 11:13 05925へのコメント
えと、補足です。
ソクラテスは「自殺」ではなく刑死というべきかもしれませんが、ともかく
「飲み方を獄吏から教わり、いやがりもせずに、一息に、悠々と、盃に入った
毒人参を飲みほした」とのこと。『パイドン』が手元にないので河出文庫『生
活の世界歴史・第３巻・ポリスの市民生活』p.338 を使いました。
同書巻末の参考文献欄によると当時の市民生活を記す手ごろな文献が少ない
とのこと。高津春繁著『アテナイ人の生活』（弘文堂。アテネ文庫。1949年）
が挙がっております。幸い手元にあるので（古本 (^^; ）チェックしてみまし
た。全61頁の小冊子です。自殺とか縊死については見当らなかったのですが、
人が死ぬとアテネでは湯潅したとか、埋葬後に「ペリデイプノン」という斎食
が供されたとか、興味深い指摘（p.51）がありました (^^)
05934/05936 NBE01771 DELPHICA RE:Re^2:『フェードル アンドロマック』重
( 3) 99/02/06 17:38 05920へのコメント コメント数：1
beckさん、こんにちは。
beck＞「フェードル」は、だいぶ前に岩波文庫ので読みましたが、
いるんですね、こういう方が^^; beckさんの土台の厚さ、幅の広さを垣間見た
気がします。わたしなんか、ラシーヌって誰？ ですから(--;
beck＞今年中にはなんとかしたいなあ(^^;。
はい、息の長いお付き合いをお願いいたしますm(..)m
05935/05936 NBE01771 DELPHICA RE:続・縊死する女たち
( 3) 99/02/06 17:39 05925へのコメント
ゴルクスさん、こんにちは。毎度ありがとうございますm(..)m
ゴルクス＞以下、ブルクハルト著『ギリシア文化史・３』（ちくま文庫。1998）
を利用します。斜め読みしかしてないので、お時間のあるおりに検
証よろしく (^^)
またまたすごい参考文献を御紹介いただき、ありがとうございます。たまたま
文庫（八巻セットですね？）ではなく、ハードカバーの方が手元にありました
ので、該当する部分（筑摩書房、Ｊ・ブルクハルト『ギリシア文化史』荒井靖
一訳、第二巻の第五章「ギリシア的生の総決算」）をざっと読んでみました。
面白かったです。いや、面白いというより、陰うつな気分になってしまいまし
た。暗い、暗すぎる(--; 古代ギリシアってこんなに暗かったのかと、愕然と
しました。以前御紹介いただいたアポロドーロスのギリシャ神話の世界でも、
やはりギリシャ神話のイメージがだいぶ崩れましたが、今回は、神話ではなく、
人々の暮らしという次元でギリシャ時代のイメージがガラガラと音を立てて崩
れていきました。
ギリシャ神話やギリシャ時代というと、なんとなくベートーヴェンの田園交響
曲が流れる中(^o^; 神々やフォーンが美しい草原で愛を語らい、理性的な人々
が歓喜に満ちた生活をしている、といったイメージ（某アニメの影響^^;）があ
りますけど、こういうのは十八世紀ドイツ人文主義以降のイメージなのだ、と
ブルクハルトは言っていますね。
ブルクハルトはギリシャ時代の厭世ムードを、これでもか、と書いていますが、
単に厭世的だから暗いだけでなく、人々のメンタリティにもやりきれないもの
があります。弱者や敗者への嘲笑、強者や恵まれた者への嫉妬など、近代人で
あればありとあらゆる仮面の下に隠さなければならない感情（byブルクハルト）
を、ギリシャ人はばんばん表に出す。そして、裏切る。「自分は大切な友人を
裏切ったことはない」というのが自慢になる。そういう仕打ちを受けてもギリ
シャ人は「への河童」だったかというと、必ずしもそうではなく、死ぬほど苦
しむこともある。そして自殺。
それと密接に関係しますが、生に対するきわめて否定的な態度。人間にとって
生まれてこないのが一番よい。不幸にして生まれてしまったら、できるだけ早
く死ぬのが次善の策。ある地域では、「あまりにも不幸だから死にたい」「こ
れまで幸せが続きすぎて、今後訪れるかもしれない不幸に耐えられないから死
にたい」といった理由での自殺が認められたとか。
神話から二つの例が挙げてあります。p.537←ハードカバー^^;
1 母親がヘラに対して、息子たちの人間としての最大の幸福を
与えたまえと祈ったところ、二人の息子は眠っているあいだ
に世を去った。
2 名高い建築家の兄弟がデルポイのアポロン神殿を建てたとき
神は、八日後に報酬を払うから、それまで愉快に暮らすよう
にと言った。八日後の夜、二人は安らかに世を去った。
こういう話は、「神々の悪質な冗談」と受け止めるのではなく、
ギリシャ時代の厭世ムードを背景に理解しないといけないので
すね。また、子捨て、子殺しの話も同様のようです。（これは
これで興味深いテーマです。）
さて、自殺に話を絞ります。この第五章には、だいぶページを割いて自殺が
論じられています。そこを見る限り、自殺の方法にはいろいろあったようで
すね。服毒、剣、縊死はもちろん、食物を口にしない、崖から飛び降りる、
等々、普通に考えつくようなものはたいていあったようです。また、性別と
いうことも、とくに強調されていません。男性の縊死もあるようです。そし
て「意味」ですが（どの死に方はどうだ、という）、これもとくにないよう
です。
ただ、「縊死する女」ということで印象的だったのは、この方法の手軽さで
す。「身につけていた帯を解いて首に巻く」というシーン。あるいは、「紐
を環にして、首にかけるのよ」みたいに妹に教えるシーン。要するに、いつ
でもどこでもすぐできるのです。女性であれば、いつも自殺の道具を身につ
けているようなもの。
（前略）キリスト教の聖典学者たちも、（女性が）凌辱に対して身を守る
ための自殺を擁護している。人々が好んだ死に方は、絞殺によるものか、
もしくは本来の縊死によるものであった。 p.407.←文庫のページ^^;
ここでゴルクスさんが「本来の」の部分がどういう意味だろうとおっしゃっ
ていますが、わたしが読んだ限り、このあたりはずっと「自殺」の話なので、
自殺として「本来」だという意味だろうと思いました。自分で絞殺はできま
せんので(--;
というわけで、「縊死する女」という切り口でみると、ざっと読んだかぎり
では、「手軽だから頻度も高い」のではないかという印象を受けました。
余談ですが、ラシーヌがフェードルを服毒自殺させ、エウリピデス
がパイドラを縊死させたのは、何か時代的な価値観がからんでいる
のだろうか、などと漠然と思っていたのですが、そういうことでは
なさそうだと思うようになりました。ラシーヌは、死につつある
フェードルに「三回目の告白」をさせたかった。剣で胸を突いたり、
首吊り状態になってからの長いセリフは無理筋です。まあ、そんな
ことじゃないだろうかと推測しています^^;
要領を得ない書き込みで申し訳ありません。ただ、ブルクハルトの本は、ほ
んとに（一部分をざっと読んだだけですが）興味深いと思いました。
05936/05936 HFC01337 beck Re^2:Re^2:『フェードル アンドロマック』
( 3) 99/02/06 23:50 05934へのコメント
うう、過褒であります（汗）
たまたま読んでいただけですから・・・。
でも本当に読みたい本を読んでいけたらいいですね(^_^)。
05937/05938 GBC00011 よし RE^4:『フェードル アンドロマック』重
( 3) 99/02/07 22:59 05934へのコメント
#5934 DELPHICA さん
｜beck＞「フェードル」は、だいぶ前に岩波文庫ので読みましたが、
私は、フランス文学のクラスで「フェードル」を原書で読まなければならな
かったけれど、私のフランス語力では……(^^; ということで、まず岩波文庫
ので読みました。
でも、当時(1997年)既に絶版で、仕方がないので図書館で借りました。
99/2/7(Sun) 01:02am 一応フランス語専攻だった(^^; よし
06173/06174 NBE01771 DELPHICA 【狂気】フェードル：「世界の文学」
( 3) 99/07/16 08:09 コメント数：1
ＭＹさん、みなさん、こんにちは。このたび週間朝日百科「世界の文学」
の刊行がはじまりましたね。わたしは、第一回配本の
シャイクスピア、ラシーヌほか
^^^^^^^^DEL
というのを見て、思わず全巻予約購読にしてしまいました^^;
「文学」と言われると、なにしろモノを読んでいないわたしなどは腰が
引けてしまうのですが、今週火曜日に届いた第２巻、
セルバンテス、ラブレーほか
の面白いこと面白いこと。面白さの一つは（わたしの場合）、「これって
美術の本だっけ」と思うぐらい美術関連の話題が多いことでもあります。
もう一つは、第三会議室のネタにあまりにも密接なこと。たとえば、かつ
てゴルクスさんに勧められて読んだ『祝祭空間の想像力』（講談社学術文
庫）は、ほんとに読んでおいてよかったと思いました。実に、この第二巻
には、「祝祭空間としての広場」（山口昌男氏）という記事もあります。
さらには、「愚者の文学」（高橋康也氏）なんていう記事は、あまりにも
【狂気】と密接で、もう、どんぴしゃりとしか言いようがありません。
第一巻に話を戻すと、やっぱりラシーヌはベタほめですね。フェードルの
心理描写、みごたえがありそうです。
で、ＭＹさん、「フェードル」は無事に観劇されたんですか？ でしたら
ぜひぜひ、ご感想などおきかせくださいm(..)m
06174/06174 KHB00201 はたぴぃ RE:【狂気】フェードル：「世界の文学」
( 3) 99/07/16 12:00 06173へのコメント
#6173 DELPHICAさん
お帰りなさいませ(^-^)。旅行記、興味深く拝見しています。
んもぉ、『世界の文学』は気になってはいたものの、置くところがないので
見て見ぬふりをしていたんです。それなのに
> >面白さの一つは（わたしの場合）、「これって
> >美術の本だっけ」と思うぐらい美術関連の話題が多いことでもあります。
という一節を読んでしまったら一巻の終わり(^^;)。フラフラと本屋さんへ
行って予約してきてしまいました(^^;)。ウチは既に講談社の『日録20世紀』で
破裂せんばかりになっているのです。ああどうしよう・・・・・・。でも
たのしみ・・・・・・。かくなる上はコンパクトな食器棚に買い換えて、本棚を
増やすしかないのかしらん（←本がキッチンに進出しているとゆーことで。床が
抜けるかも^^;）。
はたぴぃ＠ごみでした(^^;)
06178/06178 BQA01727 ＭＹ RE:【狂気】フェードル：「世界の文学」
( 3) 99/07/18 00:44 06173へのコメント
DELPHICAさん 今晩は。「フェードル」の感想、当時仕事の山にかまけて以
来、どうもすっかり遅くなりました。m(..)m ずっと気になったまま書きそび
れていたのですが、きっかけを作って下さってありがとうございます。
いや実際、フランス古典主義演劇を観るのも初めてなら、それ十分受け取る
だけの素養もなくて、ただとにかくどんなものか経験してみよう、というレベ
ルでした。だから【狂気】スレッドの末席に連なるような感想はとうてい書け
ません。(^^;
視覚的な点からは、シンプルな装置に動きの少ない演技と、象徴的な美しさ
に満ちていました。色彩や光の使い方もとてもきれいでした。新聞の紹介や批
評では、抑制された伝統的演出に対して、感情を露わにする演出で観客の反発
を買うこともあった、ということでしたが、動き自体は激しいものではありま
せんでした。ただ確かに、フェードルが強い感情に身を委ねる場面など、濃厚
な表現が印象的でした。たとえば、イポリットへの思いを語りながら身をのけ
ぞらしたり、イポリットの眼前で胸を露わにしたりといった姿は、あれから半
年経たんとする(^_^;いまでも目に焼き付いています。これも「恋の狂気」の
表現形態ですね。
さて肝心のアレクサンドランの美しさですが、抑揚やリズムの美しさは心地
よく感じられたものの、12音節の定型はよく分かりませんでした。批評では、
強い感情表現のために形式感を崩しているように書いてあった記憶があります
（ま、僕が分からなかったのはそういうレベルではないでしょうが(^^;）。岩
波文庫の訳注にあった
「ミノスとパジファエの娘」の一行は、その音楽性において名高く、それ
を称揚したのはテオフィール・ゴーチエであるとされる。
ラシーヌ（渡辺守章 訳）『フェードル アンドロマック』
岩波文庫、1993年、301頁。
は、何とか聞き取れましたが（La fille de Minos et de Pasiphae'.）、音楽
性を判断するにはほど遠く……。(^^;;
どうもお粗末な感想でしたが、また『世界の文学』からでも話題を振って下
されば、何か思いだして描くことができるかもしれません。m(..)m
＃ところで話は変わりますが、最近『世界の文学』の広告が気になっていま
す。そう、あの竹中直人扮する文豪の写真です。(^^) なかでもシェイク
スピアを先頭に勢揃いした写真を楽しんでます。“「シェイクスピアに、
セルバンテス、あのギリシア風の人はプラトンかな？ 芥川の後ろは荷風??
さて次のムチを持つ人は誰だろう？（サド侯爵か？(^^;）」
--
99/07/18 00:35 ＭＹ
06180/06183 NBE01771 DELPHICA RE:【狂気】フェードル：「世界の文学」
( 3) 99/07/18 09:33 06178へのコメント コメント数：1
ＭＹさん、「フェードル」の感想ありがとうございました。そうですか、シンプル
な装置に動きの少ない演技でしたか。実は『世界の文学』のラシーヌの項には絵が
二つ載ってまして、一つは「アンドロマック」。これはトロイア落城のシーンで、
すごくドラマチックで血みどろ^^;なのですが、演劇ではただ回想として語られるだ
けでしょうから、血みどろの演出にはならないでしょうね。
「フェードル」の絵は、このまま舞台に載ってもおかしくない、シンプルな装置(?)
に押さえた演技という雰囲気のシーンです。（帰還したテゼ、動転したフェードル
困っているイポリット。）
ところで、舞台でのイポリットは魅力的でしたか？ わたし、岩波文庫を読んだだ
けだと、「こんな男のどこがいいんだ」と思わざるをえませんでした^^; こんな魅
力のない若造にぞっこんになるところまで含めて「狂気」なのかなぁ、なんて。よ
っぽどハンサムでもないかぎり、わたしは納得しないぞ！（なんか、とてつもなく
アホなことを書いているような気もしますが^^;）
ＭＹ＞ところで話は変わりますが、最近『世界の文学』の広告が気になっていま
す。そう、あの竹中直人扮する文豪の写真です。(^^) なかでもシェイク
スピアを先頭に勢揃いした写真を楽しんでます。“「シェイクスピアに、
セルバンテス、あのギリシア風の人はプラトンかな？ 芥川の後ろは荷風??
さて次のムチを持つ人は誰だろう？（サド侯爵か？(^^;）」
わたしもあれが気になってまして^^; ギリシャ風なのは、ホメロスと踏んでいま
す。あと、ずっと後ろの方の十二単はきっと紫式部だろうと思ってます。順にアッ
プで出てくるのかと思っていましたが、それは期待薄のようですね^^;
06183/06183 Lou RE^2:【狂気】フェードル：「世界の文学」
( 3) 99/07/18 14:00 06180へのコメント
DELPHICAさん、ＭＹさん こんにちは
実は、「フェードル」は私も観に行っていたのでした。(^^) ですが、当日
かなり寝不足だったのと、フランス語の響きがとても心地よかったのと^^;で、
途中の重要シーンのかなりの部分は居眠りして(^^;いたような気がします。な
ので、あまりまともなコメントできるような立場ではないのですが、やはりと
ても印象に残る舞台でしたので、少し感想をお聞き下さい。
>>視覚的な点からは、シンプルな装置に動きの少ない演技と、象徴的な美しさ
>>に満ちていました。色彩や光の使い方もとてもきれいでした。
私もあのマグリットの絵から抜きでたようなセットがとても印象深く感じま
した。この公演のポスター（ちらし？）を見たときに（舞台のワンシーンを写
真に撮ったものだったと思う）、「わ、マグリットの絵みたい」と思ったので
すが、実際の舞台もまさにそのままでした。背景は青い空と海と白い砂と壁の
対比が鮮やかな、奥行きをあまり感じさせないシュールなもので、このセット
は舞台の最初から最後まで同じものでした。また、その中に立つの登場人物も
（とくにフェードル）まっすぐに背を伸ばして立ち、無機的な雰囲気がマグリ
ットかポール・デルヴォーの絵にでてくる人達のようでした。ただ、不思議な
ことに、私は普段はマグリットもデルヴォーもあまり好きな方ではないのです
が、この舞台のセットは大変気に入りました。そのようなシュールな世界の中
で非常に古典的な物語が展開され、演じられて行くことの不思議さ、とでもい
いましょうか、妙に心地よかったです。
もう一つセット関連で関心したのは、舞台中心の壁（これはシーンごとに様
々なものを表していたようですが）にかかる影の長さによって一日の進行が見
事に表されていたことです。日中、もっとも日の高いときには影がまったくか
かっていなかった壁は、日が進むに連れて３分の１、半分と暗くなって行き、
最後はほとんど影のなかに入っていました。
話がセットのことばかりになってしまうのは、上でも書いたように肝心な演
技の多くを見逃していたからです(;;)。ただ、
>>イポリットへの思いを語りながら身をのけぞらしたり、イポリットの眼前で
>>胸を露わにしたりといった姿
は確かに記憶にあります。ですが、私が一番よくおぼえているのは死ぬ間際の
フェードルが地面の上を這うようにして苦しむ場面で、それまで上下垂直のラ
インにそって目が動いていたのが急に崩されて、はっとしました。また、その
姿がまさに蛇のようにも見えて、「悪女＝毒蛇」というモチーフが強く意識さ
せられました。すごいクライマックスだと思いました。
フランス語に関しては、実は、一緒だった友人が親切にもさっとイヤホンガ
イドを借りてくれたこともあって（自分一人だったらたぶん借りなかった）、
日本語を聞きながらだったので分かりやすかったです（なのに寝てしまった私
は...）。私がにとって、一番感動的だったのは大４幕の "Le jour n'est plus
pur que la fond de mon coeur"あたりで、この美しさに一気に目が覚めたほど
です。これはまさに音楽的でした。
ところで、私のごく個人的な意見を言いますと、舞台でのイポリットはそれ
ほど魅力的ではありませんでした＞DELPHICAさま
ですが、
>>こんな魅力のない若造にぞっこんになるところまで含めて「狂気」なのかなぁ、
という点は、まさにそんなものだと勝手に解釈してしまっていたのであまり
違和感がありませんでした。現代物の映画やドラマで恋愛ものを見ると、よく
「なんであんな人に？」と思うことがあるのですが、古典的な世界ではキュー
ピッドの矢がかすったのかすらないのとかで、みんな簡単に恋の病に落ちてし
まうので……。(^^;
＃まったくの脱線ですが、今、そうやって簡単に理不尽な恋に落ちてしま
うという話を書いていて、ふと『真夏の夜の夢』を連想したのですが、
あれは、シーシュース（つまりテーセウス＝テゼー）とイポリットの母
親であるアマゾンの女王ヒッポリタ（アンチオープ）との結婚式の前夜
（でしたっけ？）が舞台でしたね。
と勝手な印象を書き連ねましたが、なんせ全部をちゃんと見ていないので、
かなり断片的で恣意的な感想です。なのに長々と、どうも失礼しました。
** Lou/ <18/07/99 12:27> **
＊私もDELPHICAさん、はたぴぃさんのコメントをみて、迷っていた『世界の文学』
も結局買ってみることにしてしまいました(^^) うちでも『世界の歴史』、
『植物の世界』（これは途中まで）、週刊『GREAT ARTISTS』などの置き場所に
とても困っているというのに...（今回はケチらないでちゃんと専用バインダー
も買おうかな。ないと保存がさらに大変なのですよねぇ^^; みなさん、どうさ
れてます？）
06188/06189 BQA01727 ＭＹ RE^2:【狂気】フェードル：「世界の文学」
( 3) 99/07/18 21:32 06180へのコメント
DELPHICAさん 今晩は。
ラシーヌの項に載っている絵は、どういう出典なのでしょうね。演劇と直接
結び付いた、舞台スケッチのような絵なのか、それとも独立した神話画のよう
なものなのか。「アンドロマック」のものは舞台演出とは切り離されているよ
うですか。
>ところで、舞台でのイポリットは魅力的でしたか？
はい、堅物なのでしょうが、美男子でした。(^_^; 俳優はシルヴァン・ジャ
ックという人です。ちょうど同じ頃、パトリス・シェローの「愛する者よ、列
車に乗れ」（Ceux qui m'aiment prendront le train）という映画が来ていて、
この映画にも出演していました。映画のチラシによると、
「王妃マルゴ」で歴史大作に挑んだパトリス・シェローが、未来に目を向
けて、美しき男たちのポジティヴな愛に世紀末の救いを見いだした最新作。
画家の最後の恋人で、美男カップルの関係に波紋を投げかけるブリュノ役
には、新人シルヴァン・ジャック。
とのことです。(^_^)
ちなみにフェードル役のギャランス・クレヴェルは、映画「猫が行方不明」
（Chacun cherche son chat）で主演していた人。やっぱりきれいでした（聞
かれてないって(^^;ゞ）。
--
99/07/18 17:31 ＭＹ
06191/06198 NBE01771 DELPHICA 【狂気】イポリットは魅力的であるべきか
( 3) 99/07/19 10:13 06188へのコメント
Louさん、ＭＹさん、興味深いお話をありがとうございました。
とくに Louさんのセットに関するお話はとても面白かったです。
Lou＞もう一つセット関連で関心したのは、舞台中心の壁（これはシーンごと
に様々なものを表していたようですが）にかかる影の長さによって一日
の進行が見事に表されていたことです。日中、もっとも日の高いときに
は影がまったくかかっていなかった壁は、日が進むに連れて３分の１、
半分と暗くなって行き、最後はほとんど影のなかに入っていました。
（改行位置変更）
これこれ。
ラシーヌがこだわり、フーコーもとりあげた「夜明けから日没までの一日のあ
いだにドラマが進行する」というお約束ですね。それがこの舞台では、影の長
さによって積極的に表現されていたのですね。
Lou＞ところで、私のごく個人的な意見を言いますと、舞台でのイポリットは
それほど魅力的ではありませんでした＞DELPHICAさま
はっきりこう言われてみて、よくわかりました。他人から見れば「なんであん
な男に」というような相手にぞっこんになり、日も夜も明けぬ（って言いまし
たっけ^^;）状態になることこそ、エロースの本質ですね。あとのことは付け
足しなんだろうと思います。エロースというキャラクター^^;を作ったギリシャ
はとくにすごいけど、現象自体は普遍的なのでしょう。
友人に「あんな男のどこがいいの？」と言われたら
「ああ、まさにエロースの矢がわたしのハートを射抜
いたのだわ」と思うといいかもしれませんね^^;
あんまり突飛な相手にホレたりする設定は、話のポイントそのものが違って
きますし（cf. 「真夏の夜の夢」）、ヒーロー、ヒロインがハンサムなら観
衆の感情移入を容易にするとは思いますが、わたしとしては、イポリットが
「男の魅力にあふれる」必要はまったくないのだと思うに至りました^^;
（ＭＹさん情報によると、やっぱり美男美女ではあったようですね^^;）
脱線しますが、かつて「トロイのヘレン」に関してこれに似たことを思った
ことがありました。わたしは「なんちゅう女だ、このヘレンというのは」と
思ったのです。自分のせいでこんな大変な戦争になったのに、「すみません」
の一言もないのですから。戦争に参加した連中も連中で、「あの女のせいで」
なんて誰も言わない。みんな「神々のやったことだから」と諦めているんで
す。というわけで（論理的飛躍^^;）、わたしはヘレンが客観的に美女であっ
た必然性はないと思ってます^^;
どうも、しょうもない話になってしまいましたm(..;)m
06196/06198 BQA01727 ＭＹ RE^3:【狂気】フェードル：「世界の文学」
( 3) 99/07/19 19:11 06183へのコメント
Louさん 今晩は。いや、僕より的確な表現をして下さいました。(^^)
>「わ、マグリットの絵みたい」と思ったのですが、実際の舞台もまさにそのま
>までした。
あ、なるほど。確かにシュールでしたね。人物の様子が非写実的なのも、古
典的な型ではなくて、もっと近代的な非現実性だったと思います。
マグリットやデルヴォーと違って気に入られたというのは、質感の問題があ
るのではないでしょうか。僕がこの２人があまり好きでないのは、どこかペン
キ絵のように質感が弱いためです。あの舞台装置はそういう感じがしなかった
し、そもそも規模が大きいために感じられなかったのかもしれません。
>その姿がまさに蛇のようにも見えて、「悪女＝毒蛇」というモチーフが強く意
>識させられました。
あの場面の表現はすごかったです。確かにあのように横になってうごめく姿
は、それまでの場面にはなかったものでした。台詞も苦しそうなうめき声のよ
うになっていましたが、そうした生々しい表現が反発されたのかな？（あ、観
客の反発を買ったというのはフランスでの公演のことでした。）
>あれは、シーシュース（つまりテーセウス＝テゼー）とイポリットの母親であ
>るアマゾンの女王ヒッポリタ（アンチオープ）との結婚式の前夜（でしたっ
>け？）が舞台でしたね。
最後の「シスビーとピラマス」を上演するのが、結婚の宴でしたね。しっか
し、おもしろいところでつながっているものです。(^^)
--
99/07/19 18:15 ＭＹ
06207/06207 Lou RE^4:【狂気】フェードル（脱線）
( 3) 99/07/23 12:31 06196へのコメント
ＭＹさん、DELPHICAさん、ご丁寧なコメントありがとうございます。
DELPHICAさんの「イポリットは魅力的であるべきか」のご考察も面白く読ませ
ていただきました。つきつめて行くと「魅力とは（または美醜）とは何か」
あるいは「美的判断とは？」「趣味とは？」という大問題につながってし
まいますね。それぞれの概念の歴史的変遷も興味深いです... と、こうい
うことを考えながら私は学生時代を過ごしてきた筈なのに、あまり有益な
ことが言えません。どうもすみません m(..;)m
ところで、
>>おもしろいところでつながっている
というと、ＭＹさんが #6188で引用されていた「王妃マルゴ」(_La Reine
Margot_) を偶然にも今週見ようと思って借りてきてあったのですが、実は
この映画のストーリーの時代背景や登場人物の関係を確認するために、例の
『メディチ家』（cf.#6160）の該当個所をあわてて拾い読みしたり、家系図
を眺めたりしていたのでした。
カトリーヌ・ド・メディシス（映画ではしっかりイタリア訛り(^^)）の娘
なんですね＞マルゴ（マルグリット）。ついでにマルゴの夫のナヴァール王
アンリ（後のアンリ四世）と後に結婚したのが（映画には出てこないけれど）
マリー・ド・メディシスとか...。 さらに脱線しますが(^^;、スコットラン
ドのメアリー・スチュアートもマルゴと義理の姉妹だったのか（サン・バル
テルミのー虐殺のころにはもうエリザベスに幽閉されていたのでしょうが）。
** Lou/ <23/07/99 03:06> **