第三部序
06787/06787 NBE01771 DELPHICA 【狂気】第三部序（長文注意）
( 3) 00/03/31 20:09
西暦二千年を迎え^^:【狂気】読書会もいよいよ最後の第三部に入っていきたい
と思います。
まずは「序」ですが、これが『ラモーの甥』だらけなのです。『ラモーの甥』
またはその省略形の『甥』が、各ページに何個も出てくるというありさまで、
これはもう、フーコーによる「『ラモーの甥』論」といった様相を呈していま
す。（第二部序で『ラモーの甥』に触れたときは、岩波文庫は品切れで入手で
きない状況でしたが、その後入手できるようになったのでしょうか？）
「序」というのは濃密ですから、ていねいに掬うためには第三部そのものを読
まなければなりません。それはできない相談なので^^;、ここはひとまず、お
おざっぱな粗いザルで掬うだけにしたいと思います。
■第一節 （p.367〜p.368）
まず、フーコーがラモーの甥をどう捉えているかを見てみましょう。
だが哲学者として彼（DEL:デカルト）は懐疑することを企図し、断固た
る決意によって「こうした狂人の一人」にはなりえなかったのである。
……他方、《ラモーの甥》は、自分が狂人であることをはっきり知って
いる――しかも、それは、彼の変わりやすい数々の確信のなかでは一番
執拗だ。
つまり、ラモーの甥は、自分が狂人だということを知っている。なぜ知ってい
るのか。
彼が狂人〔＝道化〕であるのは、他人からそう言われ、そう扱われたか
らである。
つまり、ラモーの甥の狂人意識は、「ひそかで絶対至上な閉じられた意識」
ではなく、「まったく表面的で、世評のもつ深さ以外の深さをもた」ない。で
は、そんな薄っぺらで底の浅い非理性は、われわれにとってどんな意味をもつ
のだろうか、とフーコーは問いかけます。ここからが難しくなるのですが^^;
どうやらラモーの甥は、「中世的な道化」と、ネルヴァル、ニーチェ、アルト
ーと同時代的な非理性形態を併せ持っている、ということらしいです。その非
理性的実在を調べて行くことは、
１ 非理性の進化の年代記にたいしていささか後退した位置を占める
ことである。（DELの言い換え：少し時代をさかのぼって非理性を
見直してみよう）
２ だが同時にそれは、非理性の主要な構造――西洋文化のなかで、
史家のあつかっている時間よりもやや低い次元でねむっている
構造を、この一般的な形式においてあえて認知することである。
（DELの言い換え：でも、普通の歴史家と同じ路線でさかのぼっ
たのでは出てこない構造だよ）
３ 古典主義時代に非理性経験を新たにした変動のなかにあった最も
本質的なものを――彼の諸矛盾の混乱した姿をとおして、あわた
だしく――教えてくれるだろう。（DELの言い換え：ラモーの甥
のめちゃくちゃなありかたを調べれば、古典主義時代の非理性経
験の変わり方のうちでも、もっとも重要なところが見えてくるよ）
ラモーの甥は、そのなかに矛盾や変化、変動を含んでいるので、それを解きほぐ
すために次の点に着目しよう、とフーコーは言っているようです。
１ ラモーの甥は何を隠しているのか。
２ ディドロの文章では、理性と狂気と非理性はどのように対決させ
られているか。
３ その三つは、どんな新しい関係で結ばれているか。
フーコーによれば、ラモーの甥は、「狂気と非理性が結合している最後の人物」
であり、「両者の分離の契機がやはりあらかじめ表現されている人物」だという
ことになります。以下第三部では、ラモーの甥にみられる狂気の非理性の分離を
「人類の最初の現象」として捉えてみる、ということのようです。
■第二節 （p.368〜p.370）
ラモーの甥の狂気は、道化としての狂気であります。そして彼は、理性本位の人
たちに囲まれ、その隙間、隙間に生きているのですが、「しかし統合された形で
生きている」。つまり、理性本位の人たちの「対象物」として統合された存在だ、
ということのようです。人々は、道化という対象をもってはじめて自分を定義で
きる。「デレゾン（非理性）がレゾン（理性）のレゾン（根拠）になる」という
わけです。
問題は、そうした対象物をもつことによってしか定義できない理性の危うさだ、
とフーコーは言いたいようです。つまり、[狂気を認知できる理性]＝[狂気とバ
ンドルされなければ存在できない程度の理性]ってことだと思います。
非理性は理性のそとにではなく、まさしく理性のなかに存在する
^^^^ ^^^^
そして、「狂気の勝利は二重の報復となってふたたび現れる」とフーコーは言う
のですが、ここのところ、わたしにはよくわかりません。二重というのは、「逆
流」と「再上昇」だそうです。
逆流：理性は狂気を所有することによってしか、自分の存在を確実に
できない。所有しているところから、非理性が逆流してくる。
再上昇：「狂人でないということは、別の流儀の狂気によって狂人で
あることなのです」という言葉通りに、理性と非理性とが限り
なく互いに関わりあっている経験への再上昇。
逆流の方はまだわかりますが、再上昇は、このままではわかりません。読み進め
るうちにわかるものと期待しましょう^^; でもとにかく、この再上昇をもたらす
関わりあいは、重要らしいです。
その関わりあいが明らかにするのは、[理性と非理性との]帰属関係の
償いようのない危うさであり、理性が自らの存在を探しもとめる所有
のなかへの、理性の無媒介の落下である。すなわち、理性は、理性が
^^^^^^^^^^^^^^
非理性を所有する運動そのものにおいて自分を疎外するのである。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^(傍点フー
コー）
このあたり、上記の着目点、２および３との関係で「現代世界における狂気の運
命が、異様な仕方で予告されている」のだそうです。なんだかすごく難しそうで
すが、要するに、<非理性と関わり合いにならなければ危ういような理性>、とい
うことを言ってるんじゃないでしょうか^^; そこから出発する一本の直線が、
アントナン・アルトーに続くんだそうです。
■第三節 （p.370〜p.372）
この節、たぶん重要なことを言っているんでしょうが、わたしは素養がなくて理
解できません。タルチュフもヘルダーリンもヘーゲルもわかりません。内容はわ
かりませんので、「このへんがおそらく重要なんだろう」という線でまとめてみ
ます。
まず、ラモーの甥は、まず第一に、古い（古典主義によってすっかり忘れられて
きた）狂人や道化の仲間であるように見える、ということ。しかし、古い道化や
狂気は、なにか本質的で力強い、不思議な力と結びついていた。ところがラモー
の甥の狂気は単なる錯誤であり、単なる盲目である。この点においてこそ、狂気
は近代世界にとって新しい意味をおびる。これが重要かもしれない第一点です。
ラモーの甥の厚かましさ、破廉恥は、開き直りではない。フーコーの言葉で言う
と「自分の秘密を打ち明ける決心をしている一種の偽善ではない」ということに
なります。ラモーの甥の「自分本位」は、二つのキーワードで表されるようです。
一つは「存在の切迫」、もう一つは「媒介の欠如」です。このあたり、早わかり
でもなんでもいいから、自分の言葉で「要するにこういうことね」と言えれば、
フーコーに一歩近づけるような気がするんですけど、今のところわたしにはでき
ません。しかしフーコーは、この点に関して、ラモーの甥の「意義」を書いて
くれています。
自分自身のこうした物音、こうした音楽、こうした光景、こうした
喜劇であること、物象として、幻の物象として自己を実現すること、
そのことによって単に物象であるだけでなく空隙と虚無であること、
人々が外面的なものに幻惑される場合のあの絶対的な充足がもつ絶
対的な空隙であること、最後に、こうした虚無とこうした存在との、
それらの不安定な円環におけるめまいであり、奴隷意識の完全な空
^^^^^^
無化に達するまでに、また、帝王意識の最高度の賛美に達するまで
に、そうしためまいであること――以上が、おそらく《ラモーの甥》
^^^^^^
の意義であるにちがいない。（傍点フーコー）
《ラモーの甥》の意義、わかりました？^^; ラモーの甥って、ものまねが
うまいんですよね。いろいろな人のまねをしてみせる。音楽もやってみせる。
でもそれは、「幻の物象」として自己を実現しているのであって、すきまで
あり、からっぽだ。理性的な人々はそれを見て満足するけど、その満足はか
らっぽだ。そのからっぽさ、そういうからっぽな存在のありかた、それがか
らみあって生じるめまい、それこそがラモーの甥だ。ってなことでしょうか。
このからっぽなありかた、そのあたりが重要かもしれない第二点です。
だいいち、「ラモーの甥」って名前自体が、フーコーによれば「自分の名前
でさえない名前のおかげでせいぜい無名の状態を脱している」わけです。そ
ういう彼のあり方は、
あらゆる真実の向こう側とこちら側で、現実的なものの存在および
非存在が、実在として実現されている妄想である。
要するに、すごくヴァーチャルだってことでしょうか。そういうラモーの甥
のありかたによって、世界の本質を把えなおす可能性が、ふたたび開かれる、
とフーコーは考えているようです。
■第四節 （p.372〜p.374）
ラモーの甥のヴァーチャル性ということで（と、わたしは思う）、『ラモー
の甥』から長い引用があります。雰囲気を感じていただくために、少々長い
ですがここに引用してみたいと思います。
気の触れた人のように叫んだり歌ったり暴れたり、自分一人で男や
女の踊り手にもなれば歌い手にもなり、オーケストラや歌劇の一座
も全部一人でやってのけ、一つのからだを二十もの別々の役に使い
分け、悪魔に憑かれた人のように、走ったかと思うと、立ち止まり、
きらきらと目を輝かしたり、口から泡を吹いたりした。……彼は泣
いた。笑った。溜息をついた。ある時は愛情をこめて、ある時は静
かに、ある時は荒々しく、眺めた。悲しさに悶える一人の女になる
こともあれば、失望の淵に沈む一人の不幸な男にもなった。そそり
立つ寺院であることも、落日に声なき鳥どもになることもあった。
……暗々たる闇夜にもなったし、物影と沈黙にもなった。
中世の非理性は、奇怪な相貌をもち、また、異国への移動であった。ところ
がいまや非理性は、見慣れた世界そのものである。何か異質なものの現れな
のではなく、
同一なるものの領域のなかで世界をくるくる回して、めまいを起こ
させることが、非理性の権限である。
でもってフーコーは、
《ラモーの甥》の笑いは、十九世紀の人間論のすべての動きを前
もって示し、要約している。
とまで言っているのです。
■第五節 （p.374〜p.376）
ここは非常に難しいので、簡単にはまとめられません m(..;)m
フーコーが最後に挙げている、「多分、近代の世界の本質そのものにかか
わる質問」をリストして終わりにしたいと思います。
・[狂気にたいする]非理性の差異・独自性のなかで自己を保持すること
は、なぜ不可能なのか？
・なぜつねに非理性は、感覚的なものの妄想のなかで魅惑されたり、感
覚的なものの妄想のなかで魅惑させられ、他方、狂気の隠れ家のなか
に閉じ込められて、分割されなければならないのか？
・どのようにして、非理性がこんなにまで言語を失ってしまうという事
態がおこりえたのか？
・ひとたび正面からこちらを見つめた人々を石化させるあの力とは、非
^^
理性の試みを企てようとしたすべての人々に狂気を宣告するあの力と
^^^^ ^^^^
は、いったいどんな力なのか？（傍点：フーコー）
この四項目を挙げて序文は終わっていますが、難しさの一端を感じていた
だけたでしょうか^^; とにかく、序文で煮詰まっていてもしょうがないの
で、先に行きたいと思いますm(..;)m
＜独り言＞わたし、ゼッタイ、これを読むのに必要以上の苦労
してると思うんです。しかし、それを言いたい気持ちをぐっと
飲み込んで（言ってるけど^^;）、翻訳者としての自分にその言
葉（「読者の頭に必要以上の負担をかけさせたらあかん！！」）
をぶつけて、明日への糧にしたいと思うのでした^^;
06788/06788 BQA01727 ＭＹ RE:【狂気】第三部序
( 3) 00/04/04 22:26 06787へのコメント
DELPHICAさん 今晩は。いよいよ第３部ですね。
えぇと、僕は昨日やっと第１部を読み終えたところです。だんだん文体に慣
れてきたのか（慣らされてきたのか(^^;）、少しは読みやすくなっているので
すが、さて、いつになったら【狂気】に追いつけるのやら。
しばらく修羅場が続いているのですが、少し落ち着いたら【狂気】の第１部
を読み直そうと思っていますので、大遅刻で何かコメントを書くこともあるか
もしれません……と思ったら、もう発言サイクルの彼方に消えてしまっている
〜。(^_^;
ともかく、これからもどうぞよろしく。m(..)m
--
00/04/04 20:07 ＭＹ
- FTRAN2 MES( 3):出版翻訳◎文芸／ノンフィクション／字幕等 00/04/05 -
06789/06789 NBE01771 DELPHICA RE:【狂気】第三部序
( 3) 00/04/05 11:11 06788へのコメント
ＭＹさん、コメントありがとうございます(;;)←感涙
ＭＹさんのご発言を読んで、「ＭＹさんが追いつくまで、待とうか」とも思っ
たのですが、むしろ「大遅刻」コメントをいただきながら、何度も蒸し返し、
蒸し返し読んでいった方がいいような気がしますので、とりあえずマイペース
で進めておきたいと思います。二十世紀中に一通りは読み終わりたいのですが
どうなりますか^^;
とにかく「大遅刻」コメントをいただいて何度も蒸し返すところから実りが得
られるような気がするのです。【狂気】読書会は永遠に不滅です（←ちょっと
意味が違うような^^;）、いつでも、いつまでも、コメントをお待ちしています。
第一部のログがほしいとか、第二部のログがほしいとか、ご注文が
ありましたら、DELPHICAまで連絡をいただければすぐにお送りいた
します＞みなさま
06790/06790 BQA01727 ＭＹ RE^2:【狂気】第三部序
( 3) 00/04/05 23:17 06789へのコメント
DELPHICAさん 今晩は。
>「ＭＹさんが追いつくまで、待とうか」とも思ったのですが、
それではいつになるやら分かりませぇん。(^^;
--
00/04/05 20:44 ＭＹ
06791/06791 KHC04271 ゴルクス 『ラモーの甥』
( 3) 00/04/06 21:13 06787へのコメント
DELPHICA さん、こんにちは。
:>（第二部序で『ラモーの甥』に触れたときは、岩波文庫は品切れで入手で
:>きない状況でしたが、その後入手できるようになったのでしょうか？）
さて、どうなのでしょうか？ まだかもしれませんね。『解説総目録』を
眺めると、「生前は発表されず、1805年ゲーテのドイツ語訳によって、俄然
反響を呼んだ」とのことです (^_^)
06828/06830 KHC04271 ゴルクス RE:『ラモーの甥』
( 3) 00/05/13 21:34 06791へのコメント
DELPHICA さん、こんにちは。
すみません、前回（４月６日付け）間違った情報を流しました。
『ラモーの甥』は岩波文庫（青６２４−３）で入手できます。本日買った
のは第19刷で1999年11月発行。『図書』の５月号巻末の在庫目録（広告部分
の p.28）を眺めていて気づいた次第です。 読んでからレスすると遅くなる
のでお知らせまで。
失礼しました ＞関係者の皆様