第五十章 神を食うこと
03824/03827 NBE01771 DELPHICA 第五十章レジュメ
( 3) 97/03/30 20:48
第五十章 神を食うこと
復活祭に復活しておかないと、永遠に立ち上がれないような気がして^^;
とりあえず復活したいと思います（まるでゾンビだな^^;）
いよいよ第四巻に突入いたします。
一 初穂の典礼
ざっとこれまでの復習をしますと
穀物霊は、人間、または動物として表される。
穀物霊は、殺される。
穀物霊は、典礼として食べられる。
本節では、穀物そのものが食べられるという話です。穀物が食べられるのは
当たり前のようですが^^; そういうことではなくて、あくまでも典礼として
食べられるというケースが数多く紹介されています。典型的なプロセスを挙
げると、次のようになります。
１ 新穀を刈り入れる。
２ 特別の儀式をもって、新穀の一部を儀式用にとりわける。
（さまざまな種類の穀物を、一握りずつ混ぜ合わせるなどする。）
３ この穀物を使って、パンを焼く。
（ビールを造ることもある。）
４ 特別の儀式をもって、このパンを食べる。
簡単に書いてしまいましたが、この「特別の儀式」というのが、部族ごとに
けっこう込み入っているんです。これだけ込み入っているということは、か
つて人々はそれだけ本気だったということでしょう。
二 アズテカ族社会の神を食う儀式
ここでとりわけてアズテカ族の儀式が紹介されているのは、キリスト教との
類似性がはっきりと見て取れるからでしょう。キリスト教が世界宗教になら
なかったなら、「神を食う儀式は普遍的だったんだなぁ」ということで済ん
だかもしれませんが、わたしでさえも、「うわあ、キリスト教と似てる！」
と思ってしまうほどですから。
ここで言う類似性とは
１ 司祭がパンを聖化する。
２ それによって、パンは神の体そのものになる。
３ 聖化されたパンを食べる。それによって、神の体の一部を摂取する。
４ 摂取することによって、神との神秘的な交わりに入る。
ということです。また、パンを聖化するという教義は、キリスト教以前のイ
ンドなどにもあるんだそうです。しかし、「人の子（キリストのこと）の体
を食べる」というキリスト教の教義は、初期キリスト教を弾圧するための口
実にも（ローマ人によって）使われたんですよね。「キリスト教徒は、子供
をさらって殺して食べてるらしい」という噂が流れたんだそうですよ。
三 「アリキアに多数のマニーあり」
この「アリキアに多数のマニーあり」というのは、諺なんだそうです（初め
て聞いた^^;）。われわれは今や、これを解釈できるところまでたどり着いた
ということわけです。（知らなかっただけに、そう言われてもあまり興奮し
ませんが^^;）
この諺の起源を説明する一つの伝説は
アリキアの聖森の創設者はその名をマニウスと呼ばれる人物であり
彼から多数のマニーが生まれ出た。p.28
というものですが、フレイザーさんは、これは「聖餐のパンにつけられたマ
ニアイなる名を説明するためにくふうされた語源学的神話であろう」と言って
います。つまり、この伝説はこじつけだということです。これに対して、フレ
イザーさん自身の仮説はこうです。
１ かつて、アリキアでは人間の形のパンが焼かれていたようである。
（根拠：ローマでは 人の形のパンのことを「マニアイ」と呼んでいたが、
これは特にアリキアで作られていたらしい。）
２ そのパンは、聖餐のパンであったのではないか。
３ 昔、「森の王」が毎年殺されていた頃には、このパンが彼の姿をかた
どったものとして作られていたのではないか。
４ 「森の王」を礼拝する者たちが、それを食べていたのではないか。
この仮説そのものの根拠は、『金枝篇』のこれまで全部、とくに、本章の第一
節と第二節ということになるようですね。本節のこれ以降でフレイザーさんが
述べているのは、「穀物霊（あるいは樹木霊）の代表としての人間の形のパン」
と混同されやすいけれども、これとは別のルーツをもつ「人形」があるという
ことです。それを区別しなければならないというわけですね。
その「人形」のもともとの使用目的は、わるさをする悪魔・悪霊をだまくらか
して、人間の身代わりにしてすることだ、というのがフレイザーさんの考えで
す。なるほど、病気などに関する「人形身代わり説」は、以前出てきた共感呪
術の観点から言っても、いかにもありそうな話ではあります。
バッハ カンタータ６番
《留まりたまえわれらのもとに、はや夕暮れになろうとし》
を聞きながら。（↑レンブラントで有名な、エマオのキリスト
のシーンです(^^)）
03879/03880 KHC04271 ゴルクス 穀物と人形
( 3) 97/04/07 22:58 03824へのコメント
DELPHICA さん、こんにちは。
話がずれて恐縮ですが、「穀物霊と人形」から思いつくままに。
（どちらかと言えば第45〜49章がらみかも）
（１） corn dolly
イラストが赤祖父哲二編著『英語イメージ辞典』（三省堂。1986年）にあり
ました。 doll の項。スカートをはいた女の子みたいです。作り方は植田重雄
著『ヨーロッパの心−ゲルマンの民俗とキリスト教』（丸善ライブラリー 136
1994年）p.58 によると、
刈入れの麦束をさらに束ね、上着、スカートあるいはズボン、エプロ
ン、帽子をつけていわゆる「コルンムーメ」（麦おばさん）を作る。地
方によってはその顔に髭をつけ「コルンアルテ」（麦じいさん）を作る。
コルンムーメには口紅を塗り、女性らしくする。これらには穀物の霊が
宿っており、麦畑や家の庭に立てておく。（以下略）
※ Kornmuhme, Kornalte はドイツ語ですね。
（２）ギリシア神話より
豊饒を促すために果樹に人形（あるいはブドウ園ではディオニュソスの首）が
吊された。豊饒を促すために人（太陽王）が生贄になったように、人形は人（女）
の生贄の代わりであったろう。ギリシア神話において縊死する多くの女（とくに
エリゴネ）を参照。（以下略）
［大修館書店『イメージシンボル事典。 hanging の項より］
縊死する女性ってそんなにいましたっけ？ このエーリゴネーはイーカリオス
の娘。農夫たちに酒を味わわせてやろうとしたにもかかわらず、それを毒と勘違
いされて殺された父親を探しに探し、屍の眠る葡萄の樹で縊死するのです。（呉
茂一著『ギリシア神話』ほか参照）
（３）デーメテールと馬のイメージ
石田英一郎著『河童駒引考』（岩波文庫。1994年）p.129 前後には、穀物霊が
雌馬の形であらわれること、デーメテールが馬の頭とたてがみを持つ女神である
こと、が書かれています。『金枝篇』第３巻 pp.263-264 では触れてない情報で
すが、前後にて書かれていましたっけ？ 見落としたのかな？ 常識なのかな？
「神を食う話」につながらず、恐縮です m(_ _)m
03884/03885 NBE01771 DELPHICA 穀物と人形
( 3) 97/04/08 10:28 03879へのコメント
ゴルクスさん、こんにちは。
（１） corn dolly
さっそく『ヨーロッパの心−ゲルマンの民俗とキリスト教』をめくって
みましたが、こちらには写真はないんですね^^; で、関係ないんですけど
すぐ後ろに、「ペルヒタ女神、ホルダ女神」というのがありますね。これ
このまえ「魔女狩りの文明史」で出てきたばかりだったので、おお、ここ
にもあったかと（忘れちゃうんです^^;）読み直しました。
（２）ギリシア神話より
首吊りの話は、わたしも知りません。そんなにありましたっけ？^^;
エリゴネさんも知らなかったので、調べてみましたら、ディオニュソス
は彼女を憐れんで、乙女座にしたんですって？ 乙女座といえば、わたし
の星座ではありませんか。おかしいなぁ、知らなかったなんて。（実は
下に述べるように、知ってたはずなんです。でも忘れてました^^;）
というわけで、神話に詳しい『星座ガイドブック 春夏編』藤井旭 誠文堂
新光社をみてみました。その結果、乙女座の乙女は誰を表すかというのは
諸説あることがわかりました。
１ ゼウスとテーミスのあいだに生まれた正義の女神 アストレア
２ デメーテール
３ ペルセポネー
４ エーリゴネ （だから、知ってたはずなんです^^;）
５ イシス
なんと豪華な顔ぶれでしょう。しかし、現在の乙女座の絵は、麦の穂をたず
さえていますから（歳差の関係で、昔は麦の収穫時に高くあがったそうな）、
デメーテールかペルセポネーの一卵性母子説で定着しているようですね。
（３）デーメテールと馬のイメージ
ゴルクス＞『金枝篇』第３巻 pp.263-264 では触れてない情報で
すが、前後にて書かれていましたっけ？
ええと、これ、わたし知ってますので、『金枝篇』にないわけがないと
思って必死にさがしました（ちょっと大げさ^^; でも、締め切り過ぎてる
んで必死^^;）
すると、#3333 の、『金枝篇』第四十九章で、わたしが次のようにまとめ
ています。
ディオニュソス 山羊 牡牛
デメーテール 豚 馬
アドニス 豚
アッティス 豚
オシリス 豚
ウィルビウス 馬 （これは『金枝篇』にとっては重要）
本文では p.284 で、馬の頭とたてがみをもった女としてのデメーテールに
触れられています。あーよかった、見つかって^^;
03957/03957 KHC04271 ゴルクス 縊死する女たち（ギリシア神話）
( 3) 97/05/10 20:57 03879へのコメント
DELPHICA さん、こんにちは。 のんびりレスです。
『金枝篇』第50章との関連で、
:>人形は人（女）の生贄の代わりであったろう。ギリシア神話において縊死する
:>多くの女（とくにエリゴネ）を参照。（以下略）
:> ［大修館書店『イメージシンボル事典。 hanging の項より］
:>
:>縊死する女性ってそんなにいましたっけ？
と書き、気になっていたのですが、けっこういることがわかりました。
（１）縊死する女たちの例
■アルタイアーとクレオパトラー：メレアグロスの死後、母アルタイアーと
妻のクレオパトラーは首を吊って死に、死後鳥と化した。 p.47.
■イアーソーンの母：夫のアイソーンがペリアースによって自決させられた
ため、ペリアースを呪って縊死。 p.65.
■デーイアネイラ：夫ヘーラクレースの愛を失うことをおそれ、媚薬である
とだまされて毒薬を夫の下着に塗ってしまう。縊死。ヘーラクレース
は自ら火葬壇にのぼり、死ぬ（不死になる）。 p.111.
■イオカステー：オイディプースの実母。彼を息子と知らずに結婚し、子供
をもうける。事実を知って縊死。 p.131.
■オイノーネー：アレクサンドロスの妻。（下記辞典では別？） 自分の下
に帰れば傷を治癒することができると予言し、帰って来た彼の治癒を
拒む。後悔して薬を持ってゆくが時遅く、彼の死骸を見て縊死。
（この話は筋が複数あるようで、火葬壇に飛び込む説あり） p.155.
■エーリゴネー：イーカリオスの娘。彼は醸造の術をよくし、酒を農夫たち
（or羊飼いたち）に振る舞うが、酔った彼らは毒を盛られたと勘違い
し、彼を殺す。父親を探しに来たエーリゴネーは、父親と共にいた犬
に父の死骸を教えてもらい、悲嘆して縊死。 p.164. （先述）
■パイドラー：アリアドネーの姉妹。テーセウスの妻。ヒュッポリトスに恋
した結果、結局彼を殺す原因を自ら作り、罪を自白して縊死。p.176.
（２）自害する女たちの例（おまけ）
■アステリアー：コイオスの娘のひとり。ゼウスと交わるのを厭って身を鶉
（うずら）に変じ、海に投身。 p.34.
■エウアドネー：テーバイに向かう七将のひとり、カパネウスの妻。夫の火
葬壇に飛び込んで死ぬ。 p.137.
■エレクテウスの娘たち：エレクテウスはアテーナイの王。エウモルポスが
攻めて来た時に、神の託宣に従い、娘のひとりを殺すが、他の娘たち
も共に自害。死ぬときは共に、と誓い合っていたため。 p.166.
■ラーオダメイア：プローテシラーオスの妻。夫が死に、一時期冥界より連
れ戻されて喜ぶが再び夫が冥界に戻り、悲嘆して自害。（若干違う筋
あり） p.188.
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
以上、『アポロドーロス ギリシア神話』（岩波文庫。改版。1978年）を利用
し、ざっと読んで拾い出した結果です。とりあえず７人はいました。比較的多い
という印象はあります。（だからなんだと言われるとちと困りますが (^^; ）
じつは上記の本、今回初めて読んだのですが (^^; 、今まで自分が持っていた
ギリシア神話に関するイメージとは異なる部分が多く、戸惑うと共に「こちらの
方が原型かもしれない」という確かな感触も得ました。よけいな脚色を経てない
ことが少し読むだけで実感できます。私にはこちらの方が共感できるのですが、
皆様いかがでしょうか？
おかげさまで良い本に出会えました (^_^)
文庫本の解説を読むと、アポロドーロスの詳細な注釈本をフレイザーが作って
いるとのこと。う〜む、なかなか彼から離れられませんねえ (^^;
追伸：上記ログ、高津春繁著『ギリシア・ローマ神話辞典』（岩波書店）も利用
してあります。上記アポロドーロス本も高津（こうづ）先生の訳なのです。この
先生からも逃れられない私でありました (^^;
03959/03963 NBE01771 DELPHICA RE:縊死する女たち（ギリシア神話）
( 3) 97/05/11 09:03 03957へのコメント
ゴルクスさん、す、すばらしい！
面白い情報をありがとうございます。首吊りした女性のリストを、面白
いというのもちょっと不謹慎ですが^^;
『アポロドーロス ギリシア神話』岩波文庫、ぜひ手に入れます。
ギリシャ神話といえば、わたしの場合、小学校のときに親が買ってくれ
た『ギリシャ神話物語』というのが今も手元にありますが、その後、大
きく知識が進展してないんです^^;
ゴルクスさん＞今まで自分が持っていたギリシア神話に関するイメージ
とは異なる部分が多く
ここらへん、少し探ってみたいですね。今後も『金枝篇』をやりながら
ギリシャ神話に脱線することは多々あると思いますので、そのときにで
も。
04070/04071 NBE01771 DELPHICA 冗談を言う女たち
( 3) 97/05/28 10:09 03959へのコメント
ゴルクスさん、こんにちは。
ふっふっふ・・・見つけましたよ、
ゴルクスさんが見落とした縊死する女。
■アンティゴネー：エウリュティオーンの娘、ペーレウスの妻
夫が別の女と結婚するつもりだというガセネタをつかまされて縊死。p.157-8
これで九人ですね。わたしも多いと感じました。あのー、何もゴルクスさんのあ
ら捜ししようと思ったわけじゃないんです^^; でも、ふと手にとって読み始めた
ら（『アポロドーロス ギリシア神話』岩波文庫）、面白くてはまってしまいまし
た。（今の担当編集者は通信やらないから、こんなこと書いても大丈夫(^^)v）
平均すれば、カタカナ固有名詞と、代名詞「彼」「彼ら」で全体の半分にもなろ
うかという本ですから、いっぺんざっと読んだぐらいでは頭に入りません。でも
大丈夫！ 堂々67ページの固有名詞索引がついてます^^;
それでも雰囲気だけはわかりました。わたしはかつて『金枝篇』に関して、「未
開民族のえぐい話を抜け出し、洗練されたギリシャ神話の世界に入ったと思いき
や・・」みたいに書いたことがあります。今にして思えば、わたしもやはりオヴ
ィディウス（帝政ローマ）流の「ソフィスティケーティッドな」（←高津先生の
お言葉p.6）ギリシャ神話のイメージに影響されていたんですね。
わたしはこれまで、ギリシャ神話というと、花の咲き乱れる美しい森にベートー
ヴェンの第六が流れるようなものをイメージしてましたが^^; アポロドートスの
ものは、それとはえらい違いです。でも、はっきり言って面白いですよね。とて
もパワフルで、これが作り事なわけがない、と思わされます。
あと、読んでみて、ヘラクレスの比重の大きさが印象に残りました。やっぱり彼
って、スーパーヒーローだったんですね(*^^*)
オマケです。たった二件ですが、戯談（じょうだん）を言う女たちの話が印象に
残りました。
■プルートーンにペルセポネーを奪われたデーメーテールは、娘を捜し求めた
が、見つからないので落ち込む。
その時、イアムペーなる一老女が戯談を言って女神を笑わせた。
これがためにテスモポリア祭で女たちは嘲罵をたくましくするの
であると言うことである。p.37
■有名なイアーソーンの冒険（そんなの知らない、とおっしゃる方もいるかも
しれませんが、話を聞けば、ああ、あれかと思われるでしょう。このイアー
ソーンが、さんざん世話になった妻メディアを捨てようとしたので、メディ
アは子殺しをするんです。またメディアはそれ以前にも、イアーソーンを救
うために、弟を八つ裂きにして殺してるんですね。）
イアーソーンたちが夜の嵐の海で迷っていとき、アポローンが稲妻で明かり
をくれて助けてくれます。そこで、そのとき現れた島にアポローンの神殿を
建てます。
……供物を捧げた後、饗宴にとりかかった。アレーテー（メーディア
にとっては恩人の女性）によってメーディアに与えられた十二人の侍
女が主だった人々をたわむれながら揶揄した。そこから、今もなお犠
牲に際して女たちが戯談を言う習慣があるのである。p.64
ね、たった二例とはいえ、なかなか印象的でしょう？
04089/04092 KHC04271 ゴルクス RE:冗談を言う女たち
( 3) 97/06/01 19:16 04070へのコメント
DELPHICA さん、こんにちは。
:>ふっふっふ・・・見つけましたよ、
:>ゴルクスさんが見落とした縊死する女。
あ、どうも。「感謝の念」と「くやしさ」が半々、というところかな (^^;
『アポロドーロス ギリシア神話』（岩波文庫）はこの機会に有志の皆様に広く
薦めさせていただきます。部分読みでも目からうろこが落ちますよ (^_^)
:>堂々67ページの固有名詞索引がついてます^^;
本文が200頁弱なんですよね。すごい迫力 (^^;
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
神に向けての冗談（？）というのは一種の挑戦でしょうか？
私は『創世記』第17章第17節、および第18章第12−15章を連想してしまいまし
た。サラの「笑い」です。性質は違いますけれど……
どちらかと言えばアマノウズメの演出した「笑い」に近いかな？
（『古事記』参照）
04099/04099 BQA01727 ＭＹ アポロドーロス
( 3) 97/06/03 00:40 04089へのコメント
DELPHICAさん ゴルクスさん、今晩は。
> 『アポロドーロス ギリシア神話』（岩波文庫）
これって「真の意味での古典時代ギリシアの伝承を真面目に、忠実に伝えて
いる」（「まえがき」）んですよね。後から加えられた余計な話が無いので、
英米で引用されている話を調べようとして唖然とすることがあるのですが、簡
潔で信頼感があるのも確かです。
I do declare...(^^; アプロディーテーがどうやって生まれたかみてみたら、
何も書いてありませんでした。(^^;; ブルフィンチさんも「一説には海の泡か
ら生まれたとも……」って書いてるし。あの(^^;;;話もオウィディウスの「ソ
フィスティケーティッドなもの」なんでしょうか？
--
97/06/03 00:15 ＭＹ
04100/04100 NBE01771 DELPHICA RE:アポロドーロス
( 3) 97/06/03 09:02 04099へのコメント
ＭＹさん、こんにちは。後世付け加えられた話はだいぶあるようですね。
わたしが面白いと思ったのは、アテナの話です。普通、アテナ＝パラスで
ボッティチェリにも《ケンタウロスを制御するパラス》Minerva doma il
Centauro という有名な絵がありますね。（この絵は1980年に日本に来た
ことがあるんですよ(^^) これだけガラスケースに入ってました。）
ところがアポロドーロスでは、パラスは、アテーナーと一緒に育った仲良
しの女の子として登場してるんです。その彼女を、アテーナーが誤って殺
してしまい、大いに悲しむという話が書いてありますp.152 これだけ印象
的な話なのに、どうして後世いっしょくたにされたのか、ちょっと不思議
な気がしました。
04101/04101 KHC04271 ゴルクス アプロディテーの誕生
( 3) 97/06/03 23:39 04099へのコメント
ＭＹさん、DELPHICA さん、みなさん、こんにちは。
:>アプロディーテーがどうやって生まれたかみてみたら、何も書いて
:>ありませんでした。（以下略）
■呉茂一著『ギリシア神話（上）』（新潮文庫。1979年）から始めると、
なお（息子クロノスによって）切り取られたウーラノスの陽物は、波
立つ海へと抛（ほう）り込まれた。それを潮が沖の方へ引いていった。
潮にもまれて時を経るうち、白い泡が肉のまわりに群がり寄り、その間
から一人の処女が生れて出た。（後略） p.33.
※このあたりがよく知られた話ということになるかもしれませんね。下記
Graves 本を利用すると、
Hesiod: "Theogony" 188-200 and 353; Festus Grammaticus; iii.2;
"Homeric Hymn to Aphrodite ii. 5.; Apollodorus; i.I.3.
と出典が書いてありました。いろいろあるなあ。
■『オウィディウス 変身物語（上）』（岩波文庫。1981年）では、
「そのむかし、わたしは、聖なる海に生じた泡だったのですもの。ア
プロディテというわたしのギリシア名も、『泡（アプロス）』からつけ
られているのですし」 p.163.
※こういうお話はよくありますね。いわゆる「民間語源」(folk etymology) み
たいな要素があるとわかります。（アプロスからアプロディテが出来た）
■ちと変わりダネ（？）というか、頼りになる本というか、Robert Graves.
"The Greek Myths" (Penguin Books. 1955,1960) を使ってみると、
The Hittites make Kumarbi (Cronus) bite off the genitals of the
Sky-god Anu (Uranus), swallow some of the seed, and spit out the
rest on Mount Kansura where it grows into a goddess; the God of
Love thus conceived by him is cut from his side by Anu's brother
Ea. These two births have been combined by the Greeks into a tale
of how Aphrodite rose from a sea impregnated by Uranus's severed
genitals.... (Vol.1. p.39)
※つまり、原話は実にヒッタイトにまでさかのぼり得るとのこと。
（なんとなくうれしい (^_^)）
04102/04104 NBE01771 DELPHICA RE:アプロディテーの誕生
( 3) 97/06/04 09:55 04101へのコメント コメント数：1
ゴルクスさん、こんにちは。なんと！ ヒッタイトですか。これは放っては
おけません^^; 以下、筑摩世界文学体系１ 『古代オリエント集』を参考に
このあたりについて少し調べたことを書いてみます。
■ヒッタイトの神話とは
ヒッタイト王国は、三期に分けられる（古王国時代、中王国時代、帝国時
代）。ヒッタイトは、シリアからイラク北部に小国家を形成していたフル
リ人と交渉をもつようになり、帝国時代には、このフルリ系の人々が支配
層に食い込んでいたと見られる。宗教面でも、フルリ系の神々への信仰が
さかんとなった。特に、天候神（テシュプ）が重要。「天と地と人民は、
ただ天候神にのみ帰属する」とされ、王は天候神の代理として政治を行う
者と規定された。当然、神話もフルリ系のものになり、なかでもクマルビ
神話が有名。
■クマルビ神話
あらすじ：「天候神がクマルビなる神を打倒して、天上の王者となる。」
最初の神、アラルをアヌが蹴落とす。このアヌをクマルビが蹴落とす。
アヌは身を隠し、自分の子供である天候神に復讐を託す。
ゴルクスさんが紹介してくださったアヌとクマルビの戦いのところ、興味
深いので引用します（クマルビ神話の冒頭に近いところです）。
上掲書p.353。［ ］は粘土板の欠落です。
アヌが王座にあった間、力強きクマルビは常に食物を献じた。
その足下に常に身をかがめ、大きな椀を手に捧げていた。
数えて九年の間、アヌが天上における王者であった。
九年目に、アヌに対してクマルビが戦いを起こした。
クマルビはアラルの時のように、アヌに対して戦いを起こした。
クマルビの目に抗し得ずアヌは、クマルビの手をかいくぐって
逃げ出した。アヌは鳥の（ように）天にかけのぼった。
その後に追いすがり、クマルビはアヌの足をとらえた。
そうして天より引きずり降ろし、陰部に噛みついた。
精液がクマルビの体内に［ ］のように入り込んだ。
クマルビはアヌの精液を飲み込むや、喜びの声をあげて笑った。
アヌは振り返り、クマルビ［に］語りかけた。
「心の中で、汝は喜んでいる、私の精液を呑み込んだが故に。
だが、断じて喜んではならぬ、心の中で。汝の体内に、
苦痛の（種を）私は置いたのだ。第一に、汝に、聖なる天候神
を宿らせた。（以下略）」
アヌは語りおえると天にの［ぼり、］
身を隠した。賢き王［クマルビは］口から吐き出した。口［の中で］
混じり合ったものを。クマルビが吐き［出したものは ］
ガンズラ［山に落ちた。］恐るべき神がその［中にいた］
ううむ、なかなかドラマチックですね。天候神が生まれるところは欠落が多いん
ですけど、この神はクマルビの体内で口をききはじめ、アヌと対話をしています。
天候神とクマルビの戦いも、まるごと欠落しているようです。（その後のなりゆ
きから、天候神の勝利がわかる。）
■クマルビ神話と、シュメール・バビロニア神話、ギリシャ神話
クマルビ神話は、シュメール・バビロニア神話の影響のもとに成立し、た
とえば、アヌやエアはそのまま登場する。また、クマルビは、バビロニア
神話のエンリルに相当。「海」は、バビロニアのティアマトに相当。
しかし、全体的な内容は、シュメール・バビロニアとは違い、むしろギリ
シャ神話との類似性が注目されている。アラルに相当する神はギリシャ神
話には出てこないが、アヌがクマルビを、天候神がクマルビを蹴落とすと
いうのは、ウラノスをクロノスが、クロノスをゼウスが倒すという構図と
よく似ている。そのため、ギリシャ神話のこの部分が、なんらかの形でフ
ルリ神話の影響のもとに成立したと考えられている。おそらくは、シリア
海岸から地中海を経由してギリシャに伝播したのであろう。
こうしてみると、どうも天候神は、役割としてはゼウスに相当するみたいですね。
天候神の誕生のエピソードだけ、アプロディテの誕生に混入したのでしょうか。
いずれにせよ、ギリシャ神話とヒッタイト神話の関係性というのは、わりとよく
知られていることなんですね。勉強になりました。チャート式世界史^^;（最近の
版です）のヒッタイトの項目を見ると、脚注にフルリ人のことが書いてあります。
それによれば、フルリ人とは、前2000年ごろに北方からオリエントに侵入した正体
不明の民族だそうで、宗教などの面で大きな影響力をもったとのことです。筑摩の
上掲書にも、フルリ人については、言語以外の面では、いまだに実態がよくわから
ないと書いてあります。
ヒッタイト王国の領域を見てみると、小アジアの方までぐっと張り出していて、な
るほどギリシャは目と鼻の先です。メソポタミア神話とギリシャ神話ってずいぶん
違うかと思ってましたが、こうして見ると（フルリ・ヒッタイトを媒介して）、
つながりがありそうですね。短期間のあいだに、ギリシャ神話に対する見方がずい
ぶん変わったように思います。これもゴルクスさんのおかげですm(..)m
04103/04104 BQA01727 ＭＹ RE^2:アプロディテーの誕生
( 3) 97/06/04 16:44 04102へのコメント
ゴルクスさん DELPHICAさん、今晩は。
呉茂一さんの本の variant は、アポロドーロスではアレークトー、ティー
シポネー、メガイラの誕生にあたるようですね。
僕が大昔、中学の頃に読んだ本では、精液（ウーラノスの？ ゼウスの？）
が滴り落ちた「泡」から生まれたことになっていました（中学生にはちょっと
刺激的(^^;）。
オウィディウス版は話が上品(?)になっていて、そういう意味で「ソフィス
ティケーティッド」なようですね。
で、今度はヒッタイトですか。ここらへんの話は全然知らないので、ホント
に勉強になります。(^^)
--
97/06/04 15:33 ＭＹ
04107/04109 KHC04271 ゴルクス RE:縊死する女たち（ギリシア神話）
( 3) 97/06/05 21:27 03957へのコメント
DELPHICA さん、みなさん、こんにちは。
#3879, 3957 において、「縊死する女たち」を考えるきっかけとなった
:>人形は人（女）の生贄の代わりであったろう。ギリシア神話において縊死する
:>多くの女（とくにエリゴネ）を参照。（以下略）
:> ［大修館書店『イメージシンボル事典。 hanging の項より］
:>
:>縊死する女性ってそんなにいましたっけ？
における出典の表記が間違っていたので、お詫びして訂正します。
［大修館書店『イメージシンボル事典』 swinging の項より］
^^^^^^^^
にして下さい。失礼しました。（自分で探してわからず、困っていた (^^; ）
04108/04109 KHC04271 ゴルクス RE:アプロディテーの誕生
( 3) 97/06/05 21:28 04102へのコメント
DELPHICA さん、丁寧な御考察、ありがとうございました。
うまくつながりましたね。手元にロクな参考文献がないので、オリエント関
係で何か買いたくなってきました (^_^)
こういうのって、フォーラムの醍醐味だと思います。ひとりでは行き着けない
ところまで行ける喜びが味わえますから。
こちらからも感謝 m(_ _)m
粘土板の欠落箇所、気になるなあ。探しに行くかな（笑）
そこが意識的に削除された（焚書みたいに）可能性などは考えすぎかな？
ヒッタイトと言えば、てな感じで続けたいところですが (^^; またの機会に。
（仕事しないと (^^;;; ）
04112/04115 NBE01771 DELPHICA RE:アプロディテーの誕生
( 3) 97/06/06 12:42 04108へのコメント
ゴルクスさん、こんにちは。
粘土板の欠落ですが、出土状況などの写真をみると、意図的削除というこ
とは考えにくいですね^^; よくぞ残ったという感じで。
メソポタミアの文献は、長い間（とは言っても、十九世紀以降ですが）聖
書学との関連で研究されてきたみたいですね。言語としても面白いらしい
ですよ。ぜひ、文献を発掘に（文字どおり、掘る^^;）行ってみてくださ
い。発掘調査隊ルックが思いのほかお似合いになるかも^^;
04305/04314 KHC04271 ゴルクス ブランコの習俗（鎮魂？祈願？）
( 3) 97/07/06 22:12 04107へのコメント
皆様、こんにちは。
「縊死する女たち（ギリシア神話）」との関連で少し続けます。
:>人形は人（女）の生贄の代わりであったろう。ギリシア神話において縊死する
:>多くの女（とくにエリゴネ）を参照。（以下略）
:> ［大修館書店『イメージシンボル事典。 swinging の項より］
■まず話の枕をば (^^;
前回 swinging と hanging を書き間違えましたけれど、両方用いられている
場面をみつけました。映画『Back to the Future. Part 3 』において、主人公
Marty があやうく首を吊されそうになり、 Doc に助けられる場面がありますけ
れど、ならず者達が、
- Look at him swing!
= Yeah! Haven't had a hanging in a long time!
とはやし立てる場面があります (^_^)
■さて、本論。
妙な本（？）でディオニュソス崇拝とブランコの起源を扱っていたので紹介し
ます。以下、多田道太郎著『遊びと日本人』（角川文庫。1980年）pp.173-181を
利用します。
エリゴネ神話と葡萄酒との関連は既に紹介済みですが、要するに父親が村人に
酒をふるまったのに、毒を盛られたと勘違いして殺されてしまうわけですね。父
の死を悲嘆してエリゴネは首を吊る、と。
エリゴネの非業の死を慰めるべく、首吊りの「真似」をしてブランコが始まっ
たという説明があるのだそうです。少し無理を感じますけれど (^^; 身体が揺
さぶられることで魂が離脱し、霊的存在との一時的交流が可能になるとか。
「ヴェーダ時代のインドでは、いけにえを捧げる僧はブランコに乗り、これ
を左右にゆり動かして、太陽が天に登るのを助ける。（中略）春には、愛の
神カーマと羊の群れの保護者クリシュナとをブランコで揺さぶる儀式が行な
われる。宇宙的規模のブランコが宇宙をゆすって永遠の往復運動をさせ、生
物や天体はこれに従うのである」（カイヨワ『遊びと人間』）
多田本 p.179 からの孫引き (^^;
「鎮魂と豊作の祈念」がまず最初にあり、若い娘の縊死する話はあとから作ら
れたのであろう、というのが多田先生の推測です。ほかに多くの縊死する女性が
ギリシア神話にいなければ素直にうなずけるのですが、さてさて。
多田先生はインド以外にもボリビア、ラトビア、18世紀フランスのブランコ遊
び流行、中国５世紀・五胡十六国時代などにおけるブランコ遊戯の話を続け、日
本では唐の時代に一度ブランコを中国から輸入した後、一旦遊びが廃絶し、幕末
明治時代になって再度輸入されたと説明なさってます。
インド→中国→日本、というルートと、インド→欧州→日本、というルートが
あったことになるのでしょうか？